日光浴で皮膚癌になる?

画像
https://news.yahoo.co.jp/articles/0b4e21d6c7de0a8f6512343017c5b4bb0d3121f1

慈恵医科大学の研究によると、日本人の98%がビタミンD不足だという。

画像

マスコミなどが「太陽は皮膚癌の原因」と日光への不安を煽りまくった結果だろう。
そう、その通りである。長年にわたって大量の日光を浴び続けると皮膚癌の発生リスクは増大する。しかし僕は、それにもかかわらず、たっぷり日光浴すべきだと考えている。考えているだけではなく、僕自身しょっちゅう日光浴をするし、患者にも勧めている。「しっかり太陽に当たりましょうね」と。
なぜ癌の発生率が上がるような行為を患者に勧めるのか、とみなさん疑問に思われるだろう。以下に説明していこう。

まず、ひとくちに皮膚癌と言っても複数の種類があるが、ざっくり、「メラノーマ(悪性黒色腫)」と「非メラノーマ」に分けられる。なぜこのように分けるかというと、メラノーマが他の皮膚癌と比べて飛びぬけてタチが悪いからです。このあたりは肺癌を「小細胞癌」と「非小細胞癌」に分類するのと似ています。メラノーマは成長が早く、転移しやすく、致死率も高い。一方、非メラノーマと診断された人がそれが原因で死ぬ確率は0.5%以下と極めて低い。
長年にわたり大量の日光を浴び続けると皮膚癌の発症リスクが上がる。これは本当ですが、この皮膚癌は非メラノーマ(基底細胞癌とか有棘細胞癌とか)です。死亡率0.5%以下と、「死亡率」なんて言葉を出すのも大げさなくらい、心配無用の疾患です。日光によってメラノーマのリスクが上がるという研究はありません。逆の研究ならあります。
たとえば、アメリカの海軍兵士を対象に行われた研究。

画像

海軍の兵士を、(1)室内勤務、(2)室外勤務、(3)室内室外半々くらい、の3通りに大別して、1974年から1984年の10年間追いかけて、メラノーマの発生率を調べた。
すると、メラノーマの発生率が最も高かったのは、(1)室内勤務の兵士だった。逆に最も低かったのは、(3)室内室外半々の兵士だった。
さらに、メラノーマができた箇所に注目すると、体幹、肩、足など、日光が当たらない場所に好発しており、かつ、非メラノーマは主に顔や手に見られた。
こういう研究を見たときには、交絡因子を疑うことも大切です。海軍所属の兵隊でずっと室内勤務しているということは、たとえば潜水艦の乗組員もいるだろう。日光がないのはもちろんだけど、狭い艦内に閉じ込められている精神的ストレス、水圧による身体的ストレス、粗悪な食事などもメラノーマの発生しやすい素地を準備するかもしれない。原子力潜水艦だった場合には、原子炉からの被曝なんてのもあるかもしれない。
しかし日光と癌の関係については、これ以外にも数多くの研究がある。

画像
https://cebp.aacrjournals.org/content/20/4/683

38472人を15年間にわたってフォローした研究。北欧では日光浴を楽しむために南にバカンスに行く習慣があるが、女性も例外ではない。もちろん、日本と同様「紫外線はお肌の大敵!」と信じて極力日光を避ける女性もいれば、日焼けに頓着せず山や海でのレジャーを堂々と楽しむ人もいる。そこで研究者が日光曝露と死亡率の関係を調べたところ、休暇に日光浴をしたことがある人はそうでない人に比べて死亡率が低いことがわかった。さらに、日焼けをしたことがある人はそうでない人に比べて死亡率が低いこともわかった。

今度は逆の角度から。つまり、日光を浴びることではなく、日光を避けることが健康にどのような影響を与えるかを調べた研究。
『日光曝露の忌避は全死亡率のリスク因子である』
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/joim.12251

画像

三つグラフがあって、左は日光を毛嫌いする人、真ん中はほどほどに当たっている人、右は積極的に当たっている人。各グラフの横軸は20年の時間経過、縦軸は死亡率(心疾患、癌、その他)。見てすぐわかるように、「太陽に浴びれば浴びるほど死亡率が下がっている」(用量依存性)。日光による死亡率の低下は劇的で、「日光に最もよく当たるグループの喫煙者の死亡率は、日光にほとんど当たらないグループの非喫煙者のそれと同じ」である。
この意味がわかりますか。日光忌避は、タバコを吸うのと同程度の悪影響を与える、ということです。

さて、ここまで、日光浴によって危険なメラノーマが発生するわけではないし、日光浴をすればするほど死亡率が低下することを説明しました。しかし、さりとて、「そうは言っても、日光浴が皮膚癌の原因ってのは確かなわけでしょ?」と思うかもしれない。
その通り。紫外線と皮膚癌の発症率についても、用量依存性、つまり「太陽を浴びれば浴びるほど皮膚癌の発生リスクが高まる」ことは、まず間違いない。
「じゃあ日光浴なんて勧めるなよ」と思うだろうけど、話は最後まで聞くものですよ。
なるほど確かに、日光により皮膚癌の発生リスクは高まる。しかし、研究者はこう考えた。「皮膚癌になったとしても、それは太陽の恩恵をしっかり受けている証拠であって、むしろ他の病気の罹患率は低下しているのではないか」と。
実際、調べてみたところ、日光曝露により皮膚癌以外の癌(14種類)は発生リスクが低下しており、さらに心疾患、糖尿病の発生リスクも低下していた。
『日光曝露のマーカーとしての皮膚癌~心筋梗塞、股関節骨折、死亡率との関係性』
https://academic.oup.com/ije/article/42/5/1486/622917
1980年から2006年まで40歳以上のデンマーク人(のべ440万人)を対象とした研究。以下のグラフはめちゃくちゃに衝撃的なんだけど、これが衝撃的だということが、わかりますか。

画像

三段あって、上段が心筋梗塞、中段が股関節骨折、下段が全死亡。それぞれの段について、左側は非メラノーマ型皮膚癌(とコントロール群)、右側は皮膚悪性メラノーマ(とコントロール群)。
右下のグラフ(皮膚悪性メラノーマのカーブがコントロール群とおおよそ一致)の他はすべて、皮膚癌にかかっているほうが死亡率が低いという衝撃の結果を示している。
「癌にかかるような人は、さぞ弱々しくて寿命も短いだろう」というイメージは、こと皮膚癌に限ってはまったく当てはまらないということだ。皮膚癌は太陽の残した置き土産であり、他の疾患に対してはむしろ防御的に働いている。これは案外、皮膚科の先生の実感だと思う。「皮膚癌にかかるおばあちゃんって、妙に元気な人が多いんだよなぁ」と。

「日焼け止めクリームはどうなのか」と聞かれることがある。「日光に含まれる成分のうち、有害な紫外線をブロックし、かつ、体にありがたい成分だけは通す、というようは日焼け止めがあれば、太陽の恩恵だけを享受できるのでは?」と。
残念ながら、そういう都合のいい商品はないようです。
というか、「皮膚癌の原因は、太陽ではなく日焼け止めではないか」という説もある。
https://naturalnews.com/021903_sunscreen_skin_cancer.html

画像
「日焼け止めからベンゼン(発癌物質)が検出された」


どうですか、皆さん。特に女性の方々。
シミやしわ、皮膚癌のリスクをとって太陽を満喫し、同時に健康な長寿を楽しむか。これらの美容のリスクを避けて太陽を遮断し、同時に健康を危険にさらすか。悩ましい選択だけど、どうか、そう太陽を目の敵にしないで。けっこういいところもある奴なんですから。

【参考】
https://note.com/nakamuraclinic/n/n8b42450fd808
https://note.com/nakamuraclinic/n/nb4f57cd2875c
https://note.com/nakamuraclinic/n/n9183f6501a27

タイトルとURLをコピーしました