犬、皮膚病、塩

【患者氏名】中村ロン 9か月男児 
【体重】30.8 kg
【主訴】皮疹(前足の付け根の肌がガサガサ、外耳の肌も荒れてる)

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【現病歴】
父親が語る。
「昔から湿疹のできやすい子でした。でもフードを変えると治ったり、でもなぜかまたブツブツが出たり。よくなったり悪くなったりの繰り返しで、何が原因なんだか、僕も分からなくて。
食べ物にはけっこうこだわってるつもりです。何と言っても、この子の父親は栄養療法を実践してる医者なんですよ笑。でも人間の栄養のプロではあっても犬の栄養のプロではないから、この子を買い始めた当初は、ブリーダーに勧められるがままにロイヤルカナンのフードを食べさせていました。ドッグフード業界の右も左も分からなかったものですから。実に無知でした。ロンには申し訳ないことをしたなと思います。

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いろいろ自分なりに調べて、信頼できそうな他社メーカーのフードにすると改善したのですが、しばらくするとまた悪くなるんですね。羊肉を試したり、ネットで売られている鹿肉などのジビエや馬肉を試したり、いろいろ試行錯誤しました。「オオカミは生の肉を食べてるんだから、こいつにも生肉がいいかも」とか思って、肉を生で食べさせたこともあります。
しばらくうまくいくんですが、やはりまた、ブツブツができます。
さすがに悩みました。「一体何がよくないんだろう。この子の口に入るものはすべて無添加で、問題ないはずなのに」と。
で、いっそ、僕が食べてるものを食べさせたらどうなるだろう、と思いました。ドッグフードでもジビエでもなく、手料理です。僕は体調に何も問題ないのだから、こいつにも問題のあるはずがないだろう、と。ただし犬に塩っけは禁忌ということですから、塩分だけは抜いて。
でも、これもいまいちでした。ガツガツとよく食べます。でもやっぱりブツブツができるんですね。一体何が原因なのでしょうか?」
【検査】
獣医先生、ロンをすばやく抑えて、耳の皮膚にセロハンテープをペタリ。
染色して顕微鏡をのぞくと、マラセチア真菌を確認。
【獣医師の見立て】
「ドッグフードというものは、まず、酸化していることが多いものです。フードに含まれているオメガ6などの脂質は、本来ブドウ球菌をやっつける力があるのですが、酸化すると、むしろマラセチアのエサとなります。酸化した油は、”連鎖的脂質過酸化反応”を起こします。腐ったリンゴが新鮮なリンゴを腐らせていくように、よからぬ脂質が良質な脂質を劣化させていくわけです。この状態でいい脂質を入れても、酸化されてしまいます。だから、まずするべきことは、酸化脂質の除去です。
そこで、抗酸化剤の出番です。代表的なのは、ビタミンC、E、コエンザイムQ10。さらにグルタチオンも有効です。
今、亜麻仁油やタラ肝油などのオメガ3系の油をあたえてらっしゃるということですが、それは確かに悪くはないですが、まずは酸化脂質の除去に取り組みたいところです。
さらにこの細胞をご覧ください。この病理所見が見られるのは、ビタミンA不足、あるいは亜鉛などのミネラル不足が考えられます。
なぜAや亜鉛が不足したのか。それは、ひとつには、食品添加物の影響が考えられます。添加物には万全の注意をしておられるということですね。しかし私の獣医としての経験からの主張ですが、ガム、ジャーキーをよく食べる犬ではビタミンA、亜鉛の欠乏が非常に多くみられます。こういう犬にビタミンAや亜鉛を与えても症状は治りませんが、ガム、ジャーキーをやめるとぴたりと治ります。
あ、言い忘れました。録音して頂いてけっこうですよ。言っていることが難しければ、話の途中で質問して頂いてもかまいません」

あの、ちょっといいですか。
確かに、この子にはジャーキーをよく与えています。おやつとして喜んで食べますし、しつけとか訓練にもジャーキーを使います。でもそのジャーキーは無添加のものしか買っていません。無添加なのにビタミンA欠乏や亜鉛欠乏の原因になるんですか?

「ドッグフード業界で働く人から教えてもらったことがあります。無添加の表示をしてもいい、というのには、ルールがあります。練りこんで中に入れてしまうと、”無添加”という表示は違法になります。しかし上から消毒液を霧吹きでかけることはオッケーなんです。
具体的には、ヒビテン系のアルコール消毒薬を噴霧したジャーキーでは、ビタミンAや各種ミネラルが消耗されることがわかっています。あるいは塩素系の消毒薬ももちろん無害ではありません。特に次亜塩素酸ですね。そういう消毒液のなかにジャーキーを浸しても、”無添加”と表示することは、ルール上、何も問題ないんですね。
なぜこんなことになったのか?
たとえばお肉屋さん。肉を切るときに包丁やまな板を消毒しないとダメですよね。消毒しないでまな板を使い続けているとだんだん菌がわいてきます。だから消毒は当然オッケー。で、消毒液まみれのまな板の上に、お肉が乗る。肉に消毒液が付着しますが、これは不可抗力。肉の内側に消毒液を練りこんだわけじゃないんだから、ここも目をつぶりましょう、となって、こんな具合に次第に解釈が拡大されて、肉に消毒液がついていても仕方ない、”無添加”表記でオッケー、という流れです。
ジャーキーを水につけて、三日間放置してください。普通はカビが生えますよ。それでもカビが生えないようなら、まず消毒液がついてます。逆に、カビが生えれば、そのメーカーは本物です。信頼できます。ただ、そのメーカーのジャーキーは、その本物さゆえに、袋の中でカビが生えるリスクもあります。店の売り場でカビの生えたジャーキーを見たことがありますか?当然ないですよね。
私は一度だけ見たことがあります。そのカビだらけのジャーキーを見て、私は感動しました。本物を提供したい、カビのリスクを犯してでも消毒薬を使わない気概を持つ、こんなメーカーがまだあるのだな、と。しかしそのメーカーはその後すぐに出入り禁止になりました。まぁ仕方ないですよね。普通のお客さんからすれば、こんな商品を棚に置いて「なめてるのか」って話です。商品にカビが生えるという、その意味を、誰も理解していませんから。

さらにこの組織像に注目してください。コラーゲン不足による所見ですね。コラーゲンはアミノ酸がつながってできるものですから、肉をしっかり食べていないと、コラーゲン産生も低下します。で、今のロンちゃんはカロリーベースで1500 kcalは欲しいところですが、できればその半分はお肉で摂りたい。目安としては、脂身のない胸肉でいえば750gほどです。

最後に、塩です。塩を一切与えていないということですが、塩抜きの刑というのをご存知ですか。かつて罪人に塩を抜いた食事を与える刑罰がありました。生存に必須の塩を与えないことで、様々な不調が現れます。動物も同様です。
オオカミは体重10kgあたり2.4gの塩が必要です。ロンちゃんの場合、毎日7gは与えて下さい。
一般の獣医学では、減塩は心臓や腎臓に好ましいということになっていますが、この主張に科学的根拠はありません。逆の論文はあります。必要量の倍、ロンちゃんでいうと、毎日14gの塩を摂取しても何ら問題はなかった、という論文はあります。
獣医も矛盾のなかで仕事をしています。口では「塩はダメ」と言っている獣医も、犬に点滴をします。その点滴の組成を見て「この点滴、3gの塩が入ってるけど」と獣医に指摘してみて下さい。言葉につまって何も反論できないはずです。妙な話ですが、獣医の世界には、”触れてはいけないこと”、”言ってはいけないこと”があるんですね。「塩はダメ」の呪縛から抜けている獣医はほとんどいないと思います。
論文的にはすでに存在します。減塩によってアルドステロン分泌が亢進し、血圧が上昇する。その血圧上昇が心肥大、ひいては僧帽弁閉鎖不全を引き起こす。
犬にも成り立ちますし、当然人間にも成り立ちます。
医学も獣医学も、減塩こそが健康にいい、と煽り立てます。人間や動物をあえて病気にして顧客を増やそうとしているのではないか、と勘繰りたくもなりますよね」

【処方】
シナール(ビタミンC)、チョコラ(ビタミンA)、ユベラ(ビタミンE)、タリオン(グルタチオン)、ノイキノン(コエンザイムQ10)、その他ミネラル

この処方、僕がいつも患者に出してるやつだった(笑)
患者に処方していたものを、我が子に処方する発想はなかったなぁ(笑)

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僕も犬を飼いだしてから知ったんだけど、犬って笑うんですよ⤴
しかし、うちの子が一番かわいいわ(←親バカ)

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