栄養療法的な血液検査の読み方2

CKとは何か?
ブランド好きの女性にとってはカルバンクライン。サッカーファンにとってはコーナーキック。僕にはとっては、クレアチンキナーゼ(creatine kinase ;CK)である。
採血項目によく見るCKだけど、一体何を意味しているのだろうか?

「何とかアーゼ、は酵素」ということは小学校の理科で習っただろう。「デンプンに作用してグルコースにするのがアミラーゼ」、「脂質を分解して脂肪酸とグリセリンにするのがリパーゼ」という類である。これにならっていうと、CKは「クレアチンに作用してリン酸クレアチンとADPを作る酵素」である。

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この反応は可逆的、つまり、リン酸クレアチンとADPからエネルギー(ATP)を生み出すことができるため、リン酸クレアチンは体内各所でエネルギー貯蔵庫として働いている。このあたりの生理学はなかなかおもしろいところだけど、ここでは深く立ち入らない。
CKは全身に一様に分布しているわけではなく、局在性がある。つまり、骨格筋、脳、網膜などに主に存在する。これらの細胞が壊れたとき、細胞内のCKが血中に飛び出す。こういうのを僕らは”逸脱酵素”と呼びます。だからCKは、組織の”破壊の具合”を見る指標として使われる。
たとえば心筋梗塞。冠動脈がつまると心臓に酸素や栄養が行かず、心臓(=筋肉のかたまり)が壊死し始める。CKの上がり具合が、そのまま心筋梗塞の重症度を表している。
たとえば筋トレ。筋トレとは、要するに、”筋肉を自分で痛めつけること” だ(SMクラブの女王様が言ってた。「筋トレしてる奴はだいたいマゾだよ」と)。トレーニングによって筋細胞が破壊されるが、その負荷に負けまいとして再生する際に筋線維が前よりも太くなる。これが筋肥大のメカニズムである。
「CKが500とか妙に高いんですけど、採血の前に何か運動しましたか?」「ええ、前日に家族と山登りに行きました。慣れない運動をすると体にこたえます」みたいなやりとりはよくある。こういうCK高値には当然病的意義はない。
他にも横紋筋融解症(スタチンの副作用として有名だが、他にも抗生剤、抗精神病薬でも起こり得る)、筋ジストロフィー、自己免疫疾患による筋炎などでも高くなる。

意外なところでは、統合失調症患者でCKが高いことが言われている。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1251926/
「著者は急性期の統合失調症患者ではCKが高いことを見出した。この数値上昇は、過活動性、外傷などの非特異的要因によるものではない。CK高値の統合失調症患者は、数値上昇を伴わない患者に比べて、精神症状がより重篤であり、かつ、慢性的に(急性発症時に限らず)CKが高めである。CK高値を伴う精神病患者の第一度近親者(血のつながりのある兄弟姉妹、親、子)でもやはりCKが高い傾向がある。統合失調症患者は神経筋疾患にかかりやすいことにもエビデンスがある」
統合失調症は脳の炎症が背景にあると言われている。CKが脳にも分布していることを考えあわせると、統合失調症患者でCKが高いことは筋が通っている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3012907/

『急性および慢性の統合失調症における血中クレアチン、アルドラーゼ、銅濃度について』
https://psycnet.apa.org/record/1972-11264-001
アルドラーゼもCKと同じように、筋肉などが壊れたときに出てくる逸脱酵素。CK同様、急性期の統合失調症患者で高い傾向があるが、慢性期の統合失調症ではこのような傾向はなかった。血中銅については、急性、慢性で差はなかったが、健常対照群と比べると有意に高かった。そもそも銅は精神病ではない入院患者でも高い傾向にあった。
銅が高くて有難いことはまずない。亜鉛(グルタチオンなどの抗酸化物質の構成材料)とトレードオフの関係だから、銅高値は炎症の存在を示唆していることが多い。

さて、ここまでは余談である(長かったけど)。タイトルにあるように血液検査の栄養療法的な読み方、というテーマでCKを解釈していきたい。

・CK高値→ビタミンE、セレン、ビタミンD不足の可能性

以下にこの根拠について説明していこう。
『セレンとビタミンEが血中CKに及ぼす影響』
https://academic.oup.com/jn/article-abstract/118/6/747/4738020?redirectedFrom=fulltext
子牛にセレンとビタミンEの欠乏した食餌を与える(<0.01 mg Se/kg, <2 mg total vitamin E/kg)。それだけでは、子牛のCKはほとんど上がらない。そこで、外に連れ出す。いつも小屋に閉じ込められているところ、牧草地をぶらぶらと歩かせる。するとCKが急上昇する。子牛の餌にセレン(0.1 mg Se/kg ( Na2SeO3として))を混ぜてやると、CK増加が抑制された。

小屋飼いのセレン-ビタミンE欠乏子牛を牧草地に連れ出すと、なぜCKが上昇したのか?欠乏食により筋肉(筋細胞を構成する膜)の脆弱性が高まっていて、そこに運動刺激が加わることによって、筋肉の破壊が亢進し、CKが上昇した可能性がある。
現代農耕は大量の化学肥料を使うことで土が痩せている。つまり、土壌中の有用ミネラル(セレンなど)の含有量が化学肥料を導入する以前よりも大幅に減少していることが指摘されている。こういう土で育った野菜はセレンの含有量が少ない。また、ビタミンEも不足しがちな栄養素である。つまり、現代人は、上記の研究でいうところの、”セレン-ビタミンE欠乏子牛”そのものだと言えそうだ。

一方、CK高値はビタミンD欠乏の可能性もある。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0887899487900531
くる病を来たすほどビタミンDが低い人ではCKが高いことが多いし、逆に、こういう人にビタミンDサプリを投与するとCKが正常化する。
さらに、ビタミンDが低い人がスタチンを飲むと横紋筋融解症が起こりやすい可能性が指摘されている。
『スタチン筋症に対するビタミンDの影響』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5644425/
そもそもビタミンDが低い時点で、筋肉が普通の人より壊れやすくなっている。そこに脂質代謝をかき乱すスタチンを入れれば、筋肉の破壊が亢進するのは当然のこと。
現代医学ではコレステロールは、”憎むべき敵”ということになっている。医者は「動脈硬化の原因になるぞ」と患者を脅し「卵を食うな薬を飲め」と迫る。しかしそんなにひどい奴なのだろうか。
コレステロールは細胞膜を作る原料であり、生体に不可欠である。体内にあるコレステロールのうち、食事に由来するのはわずか2割だけ。それだけでは足りないから、肝臓は必死になってコレステロールを産生する。その必死の努力を、医者は「悪」と断ずる。
スタチンを飲んで、めでたくコレステロールが下がったものの、筋肉が溶けて(横紋筋融解症)、さらには脳も溶けて(認知症)、寿命が縮む。それでも患者は、最後まで医者を信じている。
医療ってこんなのばかりなんだよ。

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