栄養療法的な血液検査の読み方1

栄養療法的な血液検査の読み方として、
AST、ALTが低い→ビタミンB6が低い可能性、とか、
γGTPやBUNが低い→タンパク質不足の可能性、
みたいなのは、健康に関心のある一般の人にも割と知られていて、むしろ医者のほうが知らなかったりする。「AST、ALTは肝臓疾患のマーカー、γは胆汁の具合、BUNは腎機能」程度の知識だけでも内科医として充分やっていけるから。こういう先生に「ASTが低いということは、ビタミンB6が不足してる可能性はありませんか?」などと聞いてはいけない。先生は大いに機嫌を損ねるだろう。「栄養療法とかワケワカランものをひけらかしやがって」と。

何も別個に”栄養療法的な読み方”というのがあるわけではない。たとえば、手元にある『臨床検査項目辞典』にはAST低値の原因として、以下のような記述がある。
「AST、ALTともに活性化にはピリドキサルリン酸(PALP)が補酵素として必要で、ビタミンB6欠乏状態では活性を示さない。このため透析患者やd-ペニシラミン、イソニアジドなどの服用、アルコール多飲などのビタミンB6欠乏症患者血清を、PALPが添加されていないJSCC法で測定した場合には低値となり、肝障害を過小評価する危険性があり注意が必要である」
これって、完全にサイエンスでしょ。だから本来、普通の医者(栄養療法をメインでやってない医者)であっても、AST低値を見ればビタミンB6欠乏が鑑別に浮かばないといけない(「医学部でそんな読み方は教わってない」と言いたくなる医者の気持ちはわかるけどね)。
“栄養療法的な読み方”=特殊な裏技、であってはならないし、事実、そうではない。

ただ、たとえば、
AST 10 U/L
ALT 8 U/L
という数字を見て、普通の医者が「高くないので問題なしですね」とスルーしてしまうところで、「フフフ、先生、わかっていないな」と内心つぶやきたくなる感覚はわからなくもない。同じデータを見ても、普通の人が読み取れない別の意味を読み取っているわけで、これはいかにも”裏技”を使ってるみたいで、何だか楽しいよね。

そこで以下の記事で、そういう”裏技的血液データの読み方”について紹介しよう。
ただし、たとえば「ALP低値→亜鉛不足の可能性」とか「LDH低値→ナイアシン不足の可能性」、「コレステロール高値→ナイアシン不足の可能性」みたいな比較的有名な知識は、すでに他のサイトで詳しい解説があるだろうから、ここでは取り上げない。あえてあまり広く知られてない裏読みの方法を紹介しよう。

・コリンエステラーゼ高値→ビタミンB1不足の可能性
コリンエステラーゼは、一般に「栄養状態の指標」として使われている。肝硬変でげっそりやせている患者の採血データを見ると、たいていこの数値が低い。入院治療してご飯が食べられるようになってくると、アルブミンやコリンエステラーゼが増加してくるから、「数字もよくなってますね。退院しましょう」となる。
しかし単純に高ければいいかというと、そういうわけでもない。糖尿病や脂肪肝(栄養状態良好というか、栄養をうまく利用できてない)でも高くなるし、以下の研究によるとビタミンB1欠乏でもコリンエステラーゼが高くなる。
「脚気(ビタミンB1欠乏)の鳩では血中および十二指腸、小腸でのコリンエステラーゼ濃度が上昇しており、アセチルコリンに対する感受性が減少している」
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.3181/00379727-42-11014?journalCode=ebma
「高濃度のチアミン(ビタミンB1)投与により血中コリンエステラーゼが抑制された。チアミンのコリンエステラーゼに対する親和性は、アセチルコリンに対する親和性の26倍高い」
https://jpet.aspetjournals.org/content/65/4/389

たとえば「最近物忘れがひどいんです。認知症じゃないかと思って」という主訴で来た高齢者の採血をしてコリンエステラーゼが高かったら、ビタミンB1欠乏が背景にある可能性を疑う。
ところで、アセチルコリンといえば神経伝達物質である。認知症患者ではシナプスでのアセチルコリン濃度が低下していると言われている。高めてやるにはどうすればいいか?アセチルコリンの分解屋(アセチルコリンエステラーゼ)の仕事を邪魔してやればいい。現在主流の抗認知症薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)は、この考え方に基づいて開発された。
でも副作用の多い抗認知症薬をわざわざ使わなくとも、同じ仕事はビタミンB1にもできる。
ビタミンB1と認知症の関係性を示す研究は数多い。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4846521/
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S026156141830181X
サプリを飲むのが嫌な人は、米ぬかを食べればいい。認知症治療で有名なコウノメソッドで使われるサプリ(フェルガード)は、成分としてはフェルラ酸で、結局あれは米ぬかのエッセンスだからね。

血液検査の裏読み的な方法は他にもいろいろあるので、また稿を改めて書こう。

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