「自閉症=プリオン病」仮説

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αシヌクレインという言葉は神経内科の先生に限らず、医学部なら学生時代に誰でも習います。アルツハイマー病とかパーキンソン病の患者の脳内に蓄積している異常タンパクの一種で、これらの神経難病はこのタンパク質のせいで起こるのではないかと考えられています。

このαシヌクレインが、なんと、自閉症とも関係してる可能性が指摘されている。

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8768910/

まず、自閉症の子供たちに協力してもらって、小児自閉症評価尺度(CARS)でそれぞれの子供たちの重症度を評価します。さらに、採血して血中のαシヌクレイン濃度を測定する。そして、子供たちを2群に分ける。第1群は「従来型治療群」として行動療法とLカルノシン(1日500mg)で治療するグループ。第2群は従来型治療にプラスして、ベータグルカンのサプリ0.5gを1日2回投与する。
【結果】3か月後、ベータグルカンを投与された第2群の子供全員でCARSスコアが有意に減少した。また、血中のαシヌクレイン濃度は第2群で有意に高くなった

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この結果を見て、違和感を持った人もいるだろう。「第2群(ベータグルカン投与群)で症状が改善したのは分かる。しかし、第2群の血中αシヌクレイン濃度が上がっているのはどういうことか?αシヌクレインは神経難病を引き起こす異常タンパクなんでしょ?だから、ベータグルカン投与による症状改善とともにαシヌクレインの血中濃度は減少するはずではないか」と。
まさに、研究者もこれと同じ疑問を持ちました。論文のDiscussionで考察されている。

ベータグルカン投与で自閉症児のふるまいを評価するCARSスコアが改善したんだけど、具体的にどういう点が改善したのかというと、感情面のパラメーターと睡眠のパラメーターがよくなったんですね。
ベータグルカンの投与により睡眠の質が改善することには、すでに先行する研究があって、

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この研究では、ベータグルカンを投与した自閉症児で血中メラトニン濃度が上昇したことが示されている。これ、すごくないですか?
ベータグルカンというのは、要するにキノコの成分です。キノコというのは、結局のところカビ(真菌)です。麹とか味噌とか醤油とか日本の発酵文化はカビの恩恵にあずかったものです(納豆は細菌なのでちょっと別)。真菌の産生するベータグルカンが腸に好ましい影響を与えて、それがメラトニン分泌を促進し睡眠の改善を促した、というのが想定される作用機序です。だから自閉症児が、たとえば麹をしっかり食べたとしても、恐らく血中メラトニン濃度が上がるんじゃないかな。
さて、ベータグルカンを投与した自閉症児では、なぜ血中αシヌクレイン濃度が上がっていたのか?そもそもベータグルカンの投与とか関係なく、自閉症児の血中シヌクレイン濃度を調べた研究があって、

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https://www.hindawi.com/journals/bmri/2018/4503871/

自閉症児群と正常対照群とで比較すると、前者は平均10.82 ng/mL、後者は平均29.47 ng/mLだった。つまり、自閉症児よりも正常児のほうが血中αシヌクレイン濃度が約3倍高かった
さらに別の研究。

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農薬や殺虫剤でパーキンソン病が誘発されることは以前の記事で紹介したことがあるけど、農薬(ロテノン)でパーキンソン病にしたネズミに対してベータグルカンを投与すると、パーキンソン病患者で本来見られるはずの中脳黒質のαシヌクレインの沈着が有意に減少していた。

これらの先行する研究を踏まえて今回の結果(ベータグルカン投与により症状が改善した自閉症児では血中αシヌクレイン濃度が増加している)を解釈すると、「自閉症児やパーキンソン病患者で血中αシヌクレイン濃度が低いのは、脳にαシヌクレインが凝集沈着しているせいではないか。逆に、ベータグルカンの投与によって血中αシヌクレイン濃度が増加するのは、脳に沈着したαシヌクレインがベータグルカンの作用で解離し血中に移行するせいではないか」といった仮説が考えられます。

もうひとつ、別の仮説として”腸内細菌原因説”がある。
エンテロバクターや大腸菌などグラム陰性腸内細菌のなかには、アミロイドを産生する菌がいることが知られている。このアミロイドがαシヌクレインのミスフォールディング(タンパク質の異常な折れたたみ)を引き起こし、不溶性のアミロイドとして沈着する。このアミロイドが迷走神経をつたって腸から脳へと(あるいは脊髄経由で脳へと)プリオンのように広がっていく。こうして、自閉症やパーキンソン病といった神経疾患が生じることになる。
これは非常に重要な指摘なので、以下のようにまとめておこう。

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現代毒(添加物、農薬、ワクチンなど)が腸内細菌叢をかき乱す。これにより、機能異常に陥った腸内細菌のなかには、アミロイドを産生するものがでてきて、これがαシヌクレインのミスフォールディング(折れたたみ異常)を引き起こし、この異常タンパクがプリオンのように脳へと拡散していく。そのことにより、自閉症、パーキンソン病を引き起こす。
この考え方によると、自閉症やパーキンソン病はある種のプリオン病だということです。ウイルスや細菌が病勢を拡大するわけではなく、自分の体内でとめどなく増殖していく異常タンパクが脳神経の正常な機能を阻害して症状として出現するわけだから。
最近、コロナワクチン接種者のなかに多発しているということで注目されたヤコブ病だが、この病気は一般に100万人に一人に生じる極めてまれなプリオン病と言われているが、プリオン病の定義を広げると、自閉症やパーキンソン病もこのカテゴリーに分類されると考えることもでき、そうなるとプリオン病はそもそも全然珍しくない病気だとも言える。

この「腸内細菌原因説」を裏付けるように、冒頭の論文の著者らはさらに、ベータグルカン投与実験に参加した自閉症児の腸内細菌を調べた。すると、確かに、エンテロバクターや大腸菌が有意に減少していた。

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これらの、いわば”悪玉菌”が減少したということは、当然腸内でのアミロイド産生や異常なαシヌクレインの産生も減少している。
しかし一方で、冒頭で紹介したように、血中のαシヌクレインが増加したのはなぜなのか。それは、ベータグルカンの投与によって活性化したナチュラルキラー細胞が脳に沈着したアミロイドを分解し、それが血中に流入したためだ。

以前の記事で、「アルツハイマー病は老人性自閉症であり、自閉症は小児性アルツハイマー病である」という意味のことを書いた。

アルツハイマー病もパーキンソン病も自閉症も、これらはすべて異常タンパク蓄積病、つまりアミロイド病だといえる。
だから、治療法はそれぞれ別ものではない。アルツハイマーに効く栄養素や食事法は自閉症に効く可能性が高いし、自閉症に効く治療法がパーキンソン病に著効してもそれほど驚かない。

たとえば、コロナワクチン後遺症に効くとしてナットウキナーゼが最近話題だけれども、

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『アルツハイマー病、プリオン病、その他のアミロイド性疾患に対してナットウキナーゼが効く』ということで特許が取られている。
こういうのを見たら、ナットウキナーゼがパーキンソン病や自閉症にも効く可能性を考える。それが応用というものです。

結局、100個の異なる病気(病名)があるとしても、それらが全部まったく別の病気かというとそうではなくて、せいぜい5パターンぐらいに大別できて、同じパターンに分類される病気なら同じようなサプリとか治療法でいけるんじゃないかな、ということを最近考えています。

たとえば、自家中毒(autointoxication)という病態がある。これは、ほとんど小児科でしか使わない言葉で、体内で脂肪が分解されて生じるアセトンのせいで嘔吐したりする病気のことを言うのだけど、この自家中毒という概念、体内で産生された物質が「毒」として自爆的に作用してしまう病態というのは、実は相当多いんじゃないかな。
当然、上記で見たように、自閉症、パーキンソン病、アルツハイマー病もそうだし、リウマチとかの自己免疫疾患もかなりそれに近い感じがしている。

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