人間か、AIか

ネットフリックスなんて外資だし、映画なんて見始めてドハマりすれば時間を無限に消耗してしまうし、そうなると記事を書くこともできなくなる。だから加入しない。そう決めていたんだけど、『サンクチュアリー』がネットフリックス限定配信ということで、あっさり白旗を上げました(笑)

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ケンカが超絶強い九州の不良が相撲部屋にスカウトされて上京し、部屋のしきたりに戸惑いながらもどんどん強くなっていくサクセスストーリー。これが物語の柱なんだけど、サイドストーリーというか、主人公以外の登場人物も光っていた。たとえば、「星のやりとり」なんて言葉が出てくる。要するに、八百長です。これは”公然の秘密”で、相撲界にちょっと通じている人なら、それが実際にあることは知っている。でも、日本相撲協会がその存在を認めることは絶対にない。ネットフリックスのドラマ制作班が日本相撲協会に撮影協力を要請しても、作中に八百長が出てくる時点で、協会は当然相手にしない。
でも、実際にドラマを見れば分かるように、土俵の作りとかよくできていて、本当の国技館みたいだった。日本相撲協会の協力なしに、実際の相撲を見事に再現していた。

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これ、全部セットなんですね。こういうふうにリアルに作りこんだセットができるのは、ネットフリックスの莫大な資金力が背景にあります。

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この大柄なかた、『サンクチュアリ』で主人公のライバルともいうべき力士役(静内)を演じた住洋樹さんです。
住さんは神戸の出身で、うちのクリニックのすぐ近くでお店をやっています。そんなつながりでお会いする機会を得ました。
「撮影の始まる1年前から専属のトレーナーがついた。それも、オリンピックのメダリストを育てたことがある一流のトレーナーが。
8年前に相撲を引退した後は、プロレスラーをしていたこともあるけど、相撲部のコーチをしたり会社を作ってビジネスしたりで、基本体を動かしてなかったから、久しぶりのトレーニングは大変でした」
続編の話は来てるんですか?
「いや、まだ来てないです。ただ、他の映画から出演オファーがあって、キアヌ・リーヴス主演の『John Wick 』にちょっとだけ出ています。日本公開は2023年9月22日。よかったら見てください」

役者の肉体改造とかセットのリアルな作りこみとか、ネットフリックスは潤沢な資金があるから、細部で手を抜かない。制作陣のそういう熱が作品にこもってるから、当然おもしろい。見ればおもしろいに決まってるんです。そして、ハマってしまう。
『サンクチュアリ』の次に、『全裸監督』につかまってしまった。AV監督村西とおるの波乱万丈の半生を描いた連続ドラマで、いったん見始めると続きが気になって止まらない。結局シーズン2も含め全部見てしまった。

そんな具合に、最近はネットフリックスにハマっていて、ブログの更新がおろそかになっている。いけないことだとは思いつつ、しかしこの3年間、誰よりも頑張って情報発信してきたのだから、もうそろそろ人並みの趣味娯楽を味わってもいいではないか、などと自分に飴を与えたり。。。

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バッターは打率で、ピッチャーは防御率で評価されるけど、野球で使われる「率」はそれだけではなくて、長打率、得点圏打率、出塁率、盗塁成功率、被本塁打率、与四球率などなど、実は野球ほどデータ分析がはまるスポーツって他にないぐらいなんですね。
1978年Bill Jamesというスポーツライターが、チームの勝敗の決定要因を統計データを使って科学的に分析した。これは後にセイバーメトリクスと呼ばれるようになり、今やメジャーリーグではこの手法を採用していないチームはない。でも、当初は全然注目されなかった。提唱者のビル・ジェイムズ氏自身が野球に関してずぶの素人であることや、内容があまりにも革新的(「バント、盗塁は無意味」「全員がホームランを狙うのが結局一番効率的」「打率というか出塁率が超重要」など)であったため、野球関係者から受け入れられなかった。
しかし、オークランド・アスレチックスのGMであるビリー・ビーン(映画ではブラピが演じてる)はセイバーメトリクスをメジャーリーグの球団で初めて本格的に採用し大成功をおさめた。この映画の見どころはここです。たとえば、スカウトマンたちが来季に向けてどの選手を獲得するか、口々に議論している。「X選手のスイングは火を噴くように早い」「いや、スイングならY選手の職人技には誰も及ばない」みたいに、熟練のスカウトマンが”長年の勘”という主観にもとづいて議論しているところ、ブラピは徹底したデータ主義を持ち込んだ。
選手2万人をそのプレーの質に基づいてレーティングし、年俸額も加味してそれぞれの選手の「コスパ」を計算した。そこから、コスパの最もいい25人の選手を選出し獲得に動いた。
つまり、データ分析から、野球界で最も過小評価されている選手たちが見えてきたわけです。

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リリーフピッチャーとしてすばらしい実力がありながら、投球フォームが変(アンダースロー)だからというだけで、不当に低い年俸の選手がいた。そのおかげで、たったの23万7千ドルで獲得できた。
そんな具合に、他のスカウトマンなら一顧だにしない選手を格安でどんどん採用した。
その結果、チームは連勝を重ね、ついにはプレーオフ進出を果たした。
これに驚いたのは野球関係者である。レッドソックスのオーナーが、ブラピの獲得に動いた。「うちにGMとして来てもらえないか」と。
「あなたはわずか4100万ドルでプレーオフに進出するチームを作った。デイモン、ジアンビ、ペーニャなどのスター選手を他球団に引き抜かれたのにもかかわらず、それでも、今年は去年以上の勝ち数をあげた。普通ならあり得ないことだ。でも、あなたはそれを実現した。
知っているだろうか。アスレチックスの勝ち数は、ヤンキースの勝ち数とちょうど同じで、しかしヤンキースは1つ勝つのに140万ドルかかっている。しかし、あなたのアスレチックスは1勝あたり26万ドルしか使っていない」

これは2011年の映画だけど、映画がヒットした影響もあって、その後メジャーの各球団がセイバーメトリクスに基づいた野球戦略を取り始めた。
その結果、野球がどうなったか?

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2019年に引退したイチローが、引退の記者会見で「現在の野球は頭を使わなくてもできてしまうものになりつつある」と語った。これは要するに、行き過ぎたデータ偏重に対する懸念である。
いまや選手のプレーひとつひとつがデータとしてあらゆる角度から分析され、試合の際にはその分析結果をもとに、野手の守備位置や投手の配球などが決められる。攻撃する側も、投手の配球をデータ分析しているから、さらにその裏をかいた攻めを仕掛ける。
もはや野球は、純粋な力と力のぶつかり合いではなくなってしまった。ビッグデータの分析合戦になっている。
たとえば、投手の股下からきれいにセンター前に抜けていくと思われた打球が、あらかじめ2塁ベースのすぐ後方を守っていた二塁手に難なくキャッチされた。
こんなプレーはかつて存在しなかった。ほとんどの観客は気付いていないが、選手には分かる。これこそがデータに基づく野球なんだと。

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イチロー「最近高校野球をよく見るんです。彼らは野球をやっているんですよ。普段メジャーリーグをよく見る。当然ですけど。メジャーリーグは今、コンテストをやっているんですよ。どこまで飛ばせるか。野球とは言えないですよね。どうやって点を取るか。そういうふうにはとても見えない。高校野球にはそれがつまっている。おもしろいですよ。頭を使いますからね」
イチローは今、高校野球の指導にはあちこち出向いているけど、プロ野球の監督のオファーはことごとく断っている。
「もうデータの世界はまっぴらごめん、頭を使わない野球はうんざり」ということだろう。

「ヒトよりもコンピューター」「人間の感覚よりもデータ」という価値観が普及していくと、社会のあらゆる場面で、「人間よりもAIに任せよう」ということになってくる。
これで思い出すのは、ボーイングとエアバスの設計思想の話です。
(20+) 動画 | Facebook
「自動運転の際に、機械と人間で意見が食い違ったとき、どうするか?たとえば、人間が「減速しないと!」と思っているときに、AIが「加速します」となればどうなるか?
ボーイング社は、飛行機の主たる操縦者はパイロットだと考える。コンピューターはあくまでその補佐。一方、エアバス社は、主たる操縦者はコンピューターであり、それが正常に機能しているかチェックするのが人間だ、と考えている。
二大飛行機メーカーは、それぞれ根本的にまったく違う設計思想で飛行機を作っているわけです。パイロットコンピューターで意見が違った場合、パイロットを優先するのがボーイング、コンピューターを優先するのがエアバスです。
ただ、ボーイング社は737MAXを作ったときに、コンピューター優先の飛行機を作った。それで2機墜落した。先例のない緊急時にコンピューターの判断を優先させては、大惨事が起こるという実例です」

先月、嫁の実家に行くと、義理の父が車を新車に乗り換えていた。クラウンの最新型。義父は高齢なので、たとえば、いきなり側道から誰かが飛び出してきたときなんかに、自動ブレーキがかかる車のほうが確かに好ましい。コンピューターが、人間の反射神経では反応できないようなコンマ何秒のスピードで急ブレーキを踏みこんでくれる。すばらしいサポートだ。
しかし、たとえば、風に大きく膨らんだビニール袋が車の前を横切っても、急ブレーキが発動してしまう。別にただのゴミなんだから、反応しなくてもいいのに。
コンピューターは、非常に優秀な秘書のように思えるときもあれば、とんでもなく融通がきかないバカのように思えるときもあって、どう付き合っていくか、大きな課題ですね。
ちなみに僕は運転免許がありません。こう見えてスピード狂で、何度もスピード違反で捕まって、ついには免許を取り上げられてしまいました(笑)
時間の余裕ができればまた自動車教習所に免許を取りに行こうと思っていたけど、そのうち「車のない生活も悪くないな」と思うようになりました。実際、最近都市部に住む人で車を持たない人の割合が増えていると聞く。
「自動運転、是か非か」の議論の前に、そもそも車を持たないという選択も全然ありだと思います。

人間か、AIか。
まず、僕としてはエアバス社の飛行機には乗りたくない。ボーイングも737MAXは嫌だな。
野球は、日本のプロ野球もほとんどの球団がセイバーメトリクスを採用しているというから、そういう野球は単なる「コンピューターの答え合わせ」に過ぎない。選手たちがビッグデータの指示するがままに動いている野球が、果たしておもしろいのかって話だよね。結局、近所の草野球のほうがプロ野球よりはるかにおもしろいってこともあるんじゃないかな。
そういう意味で、『サンクチュアリー』はよかった。ここにはAIもビッグデータもなくて、ただ、土俵の上で男たちがぶつかっていた。結局僕らは、人間のドラマが見たいのよ。

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