きのう保江邦夫先生の講演会に行ってきた。そこで、こんな話を聞いた。
「娘が二人いるんだけど、僕は長女にも次女にも、我が身の守り方を教えた。たとえば銃の打ち方。次女が高校2年生のとき、アメリカに連れて行った。拳銃と自動小銃の扱い方、射撃を一通り全部教えた。万が一のとき、たとえばこの国が滅びて、中国やロシアが攻めてきたときに、日本人女性は自分の身を自分で守らないといけない。仮に自衛官の残した小銃などの火器が手に入ったとしても、素人はどうしていいか分からない。拳銃がある。弾が入ってる。じゃあ打てるのか。絶対打てないです。安全装置の外し方、弾の装填の仕方、そういうのが分かって初めて身を守れる。そういうのを娘に教える。それが僕の主義なんです。
どこの射撃場でもいいわけじゃない。下手な射撃場に連れて行くと危ない。変な奴がいっぱいいるからね。サンディエゴにアメリカ海軍基地があって、そのすぐ近くに警察署がある。その隣に射撃場が併設されている。そこで射撃練習してるのは警官ばかり。そこで娘と僕がトレーニングを受けた。
トレーニング申し込みをすると、本当にきっちり教えてくれる。それもトレーナーは実戦経験のあるプロ。たとえば元グリーンベレー(米軍特殊部隊)とか。打ち方のレベルが違う。娘が習うのはもちろんだけど、僕も横で一緒に習う。
まず弾の込め方から。弾も9㎜弾とか45口径とかいろいろある。コップキラーといって、防弾チョッキを貫通する弾も打たせてくれた。
そういう訓練を娘と一緒に受けていると、トレーナーが「お前はこの娘の父親か?」
そうです、と答えると、「父親なら父親用の特別なコースがある。どうだ、受けてみないか?」一瞬、余分に金をとる営業じゃないかと思ったけど、そうじゃなかった。普通の射撃訓練では到底教えてもらえないことを教わった。
娘を人質にとられて、犯人が娘の頭に拳銃を突きつけている。「銃を捨てろ!」と言われたときにどうするか?そういう状況での対処法を教えてくれた。
「お前の手には銃が握られている。しかし犯人は、娘の命が惜しければ銃を捨てろ、と言う。さあ、ドック(先生)、お前ならどうする?」
どうするも何も、そんな状況では拳銃を捨てるしかありません。
「それは最悪のチョイスだ。お前は撃ち殺され、人質の娘も殺されるだろう。殺されるだけならまだいい。殺される以上にひどいことをされるかもしれない。お前はこの子の父親だ。父親には父親の責任があるだろう。だから、絶対に拳銃を捨てるな」
いや、しかし拳銃を捨てなかったとしても、娘は殺されてしまう。。
「そう、だから、そうなる前に犯人を殺せ」
犯人は、こうやって拳銃を突きつけつつ娘を盾にしている。これで「銃を捨てろ」と言われている。この状況をどうやって打開できるのか。
「いいか、ドック。決して銃を捨ててはいけない。「捨てろ」と言われて、「はい分かりました」と言いなりになる人間は、そもそも銃を持つ資格がない。
打つんだよ。銃はそのためにある。問題はどこを打つかだ。
娘を人質にとられたこの状況、ドック、お前ならどこを打つ?」
犯人の腕ですか?
「やめておけ。それは俺でも難しい。お前も銃を打ったことがあるなら分かるだろうが、拳銃は反動が強く、着弾率が低い。下手すれば娘さんの顔に当たるだろう。だから、どうしようもない。
そう、そもそも状況的にどうしようもないんだ。どうしようもないのだから、俺はこうアドバイスしている。最初から娘を狙って打て、と。
意味が分からない、という顔をしているな。オーケー、どういうことか説明しよう。
ドックよ、お前の娘は美人か?それなら、娘の足を狙え。足を打たれた娘は、膝から崩れ落ちるだろう。そのとき娘の体重を支えきれなくなった犯人は、胸元が開く。そこですぐさま2発目、今度は犯人の胸を撃ち抜け。
娘がかわいくないならば、万が一顔に傷がついても仕方ないと考える(笑)すると、狙うべきは娘の左肩だ。左肩にうまく着弾すれば、娘は左後方に倒れる。このとき、やはり犯人の胸元が開くから、ここに2発目を撃ち込め。
父親のお前が拳銃を捨てたら、その瞬間、まず最初にお前が撃ち殺される。娘はどうにかされる。死以上の辱めを受けるかもしれない。これがあり得る限り最悪のシナリオだ。こうなるぐらいなら、お前の手で娘を撃ち殺してやれ。それから、犯人に10発でも20発でも撃ち込め。
銃を持つというのは、そういうことなんだ。甘い世界じゃない」
恐ろしい指導だった。しかし深く納得した。「そりゃそうだ」と。自分の娘を打つなんて想像することさえ恐ろしいが、それでも、起こり得る最悪の事態よりは、確かにマシだろう。銃社会を生きていくには、こういう事態をも覚悟しておく必要がある。
その翌日、外の射撃場で実戦練習をした。ハワイもそうだったが、サンディエゴの射撃場も山の中にあった。そこでは世界各国のありとあらゆる自動小銃や拳銃を打つことができた。アメリカのM16はもちろん、ロシアのAK47など、世界中の軍隊で使われている小銃が一式そろっていた。
たとえばM16。照準を装着し、照準のぺけ印のところを標的に合わせて撃鉄を引くが、照準通り着弾することはまずない。どうしても反動でぶれてしまう。
しかしAK47には驚いた。唯一、このペケにきちんと着弾するのはAK47だけ。ロシア製の安い自動小銃なのにね。だからテロリストはみんなあの銃を使ってる。というか、本当は米軍兵士もあれを使いたい。
M16はぶれて、着弾精度が低い。精度の低い銃を打つのは、兵士にとって最悪のリスクなんです。被弾を免れた敵側の反撃を呼び込むわけだから。だから、米軍兵士の本音としては、M16ではなくてロシア製AK47を使いたい。でも、それよりもっとすごいのは、スイス製のSIG SG550です。
拳銃でも似たような話がある。最高の拳銃はオーストリア製のグロックです。
米軍は、総合的な火力では世界最強の軍隊です。しかし拳銃や小銃といった個々の兵士の火器については、全然最強ではない。米軍としては、純粋に戦力のことだけを考えるなら、自動小銃はSG550を、拳銃はグロックを採用したいところなんです。しかしそうならない背景には、全米ライフル協会の反対がある。「外国製品を採用されては収入が減ってしまう」。そういう懸念からロビー活動を繰り返し、政治を動かした。
だから米軍は、全員コルトとかレミントンのような米国製の銃を持たされている。「米軍だから米国製の銃なんだね」とかそういう話じゃないんです。これは完全に政治です。実際、米軍兵士を取り締まる立場にあるMP(警察)は、イタリア製のベレッタを持っている。コルトよりもレミントンよりもはるかに着弾率がいい。兵士もそのことを知っています。「自分たちのコルトでは応戦できない」と。だからMPから銃を向けられれば、降伏するしかないわけです」