ベンゾの減らし方

精神科の薬はどれもヤバいけど、一番気を付けるべきはベンゾジアゼピン系抗不安薬/睡眠薬(以下ベンゾ)じゃないかな。
抗精神病薬は統合失調症に、抗うつ薬はうつ病に投与されるが、誰しもが統合失調症やうつ病になるわけではない。しかし、不眠は誰しも経験したことがあるだろう。そして、病院受診して一言「眠れません」と言えば、すぐベンゾが処方される。
簡単に処方される薬だから、どうってことない薬だろうと思ったら大間違い。はっきり言って、ベンゾほど罪な薬はない、と思っている。
初めて飲んだときは、劇的に効く。不眠対策をネットをいろいろ調べて、枕元にラベンダーを置いたりホットミルクを飲んだりなんやかんやしても全然寝れなかったのが、ベンゾを1錠飲むだけで一瞬で寝れる。「今まで悩んでいたのがバカみたいだ。もっと早く受診しておけばよかった」そんなふうにさえ思う。しかし、これが落とし穴である。
毎日睡眠薬に頼り始めると、個人差はあるが、だいたい2週間ほどで依存性が生じる。かつ、同時に、耐性も出てくる。
ベンゾの長期服用者はこんなふうに言う。「初めて飲んだときは、飲んだ瞬間から朝まで一度も目が覚めることなく、気持ちよく眠れました。しかし今は、2、3時間で目が覚めてしまいます」。最初に感じた薬効が、服用のたびに次第に低下していく。最初と同じ効果を得るには、量を増やさないといけなくなる。これが耐性である。
患者はあるとき、「あ、これはやばい薬だな。私、この薬なしではやっていけなくなってる」と気付く。一念発起して「こんな薬、絶対やめてやる!」と決意する。
すると、ベンゾの退薬症状(離脱症状)に襲われて、「地獄の苦しみ」を味わうことになる。
これまで「薬で寝ていた」わけだから、不眠は必発である。さらに、猛烈にイライラして家族に当たり散らす。不安と緊張で胸がドキドキし、ひどいとパニック発作を生じる。手が震えて細かい作業に差し支える。特別暑い季節でもないのに変にをかく。仕事をしようにも集中できない。ドラマを見るのが趣味なのに、それさえ楽しめない。集中できないせいか、ストーリーや人間関係を把握しにくい。何だか記憶力が悪くなった気がします。ベンゾを飲んでると食事がおいしかったのに、ベンゾをやめたせいで、胃がムッとするというか、食事を受け付けなくなった。食事が減って、やせてしまった。あと、筋肉痛っていうかな、この辺の肩とか首がこっています。皮膚がざわざわチクチクするような、変な感覚があります。
まぁとにかく、症状という症状が様々に噴出する。それがベンゾの離脱症状です。

ベンゾをやめなければ離脱が出ない、ということではない。先に述べたように、ベンゾには耐性がある。つまり、同じ量のベンゾを飲み続けていると、薬効が低下してきて、いわば「相対的離脱症状」をきたす。「飲み続けているのにヤク切れ」という状態になるわけだ。
これを治す一番手っ取り早い方法は、増薬である。しかし、いずれその増やした量に対しても体は耐性を生じ、さらなる相対的離脱を生じるようになる。ベンゾには処方上限があるから、医者は患者の要求通り、どこまでも薬を増やして対応することはできない。だから患者は、あるときいきなり「もうこれ以上のベンゾは出せません」と医者から言われ、途方に暮れることになる。

【症例】50代女性
1月30日初診。「あまりにも苦しい日々が続き、日常生活もままなりません。入院することも考えています。メイラックスを昨年6月から使っていて、それを少しずつ減らしていったところ、体調が悪くなりました。自分でも離脱症状だと思っています。入院したところで、結局薬を増やされるだけだと思うので、何とか耐えている状態です。
すでにサプリやプロテインなどを自分なりに飲んでいます。ビタミンはナイアシン、C、GABA、マグネシウム、鉄を飲んでいますが、効果は感じません。というか、胃が痛いのですが、ナイアシンのせいでしょうか?タンパク質の多い食事を心がけ、肉や魚、卵をたくさん食べています。プロテインも1日40g飲んでいます。先生はプロテインや鉄剤に対して否定的な印象ですが、どう思いますか?これらがベンゾの減薬の助けになると思いますか?GABAについても先生ごとに見解が異なるようです。先生はどう思いますか?ベンゾをSSRIにスイッチして、SSRIを減薬していく方法があると読んだのですが、先生はこれについてどう思いますか?あと、CBDオイルに興味がありますが、お勧めのメーカーを教えてください」

サプリはサプリで続けたらよろしい。いろんな先生がいろんなことを言うだろうけど、一番大事なのは自分の体感。これを忘れちゃダメだよ。理論に自分を合わせちゃいけない。理論を上手に利用する。これが正しいやり方だからね。
自分の体重グラム相当のプロテインパウダーが本当に必要なのか、それは分からない。体に合えば続ければいいし、合わないようならやめておこう。タンパク質は、吸収されてこそ、だから。むやみに摂取しても、吸収されずに腸で腐敗してたら意味ないよ。
それから、僕も自分なりの考えに基づいて好き放題言うけど、これだって全部鵜呑みにする必要ないからね。都合のよさそうなところをつまみ食いで使ってくれたらいい。

まず、キャベツジュースを飲んでみませんか?
これ、僕が今一番推してる治療法。以前に「胃潰瘍に効く」っていう文脈で紹介したことがあるけど、これはずいぶん控えめな表現で、本当のところ「キャベツジュースで万病が治ってしまうんじゃないか」ぐらいに実は思っている。
「エビデンスはあるのか」と詰め寄られても困る。何人かの患者に勧めて、彼らの感想を聞いての直感に過ぎないんだけど。一応研究としては、こういうのがある。
『気分障害および神経学的障害への栄養とライフスタイルへの介入』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5871207/
「いろんな症状(不安症、うつ病、記憶力低下、認知症、パーキンソン病、脳卒中、多発性硬化症)の患者27人(疾患の重複あり)に対して、野菜ジュースやサプリ、運動など、投薬以外でのアプローチを3か月間やらせた。ざっくり結論だけ言うと、「すごく効いたよ」って研究」
別にキャベツにこだわることはない。たとえば癌など難病への有効性で知られるゲルソン療法は、ニンジンジュース推しで、ゲルソン療法も不安症やうつ病、薬の離脱症状に効く。
だからニンジンジュースでもいいし、何ならキャベツやニンジン、ビーツ、リンゴやショウガなどをちゃんぽんしたジュースを作ってもいい。
大事なのは、加熱してない新鮮な野菜のジュースで、ビタミンや酵素、抗酸化物質を摂取すること

あと、サプリ的なことでいくつか勧めるとすると、
・グリシン
・タウリン
・イノシトール
・フォスファチジルセリン
・テアニン
あたりは、それぞれ有効性を示す文献がある。当院ではこれらの栄養素を独自に配合したサプリを勧めています。
『高用量グリシンと強迫性障害』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2825652/
『タウリンの不安に対する効果』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19239151/
『うつ、不安に対するイノシトールの効果』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24424706/
『フォスファチジルセリンがストレス反応性を正常化する』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4237891/

3月18日再診。「自殺願望はなくなりました。食事はスムージーを飲むようにしています。朝にキャベツ、ニンジン、小松菜、ブロッコリースプラウト、リンゴ、バナナ、あとにがりも入れて飲んでいます。私だけじゃなく、家族みんなで飲んでいます。主人はおなかの調子がいいって喜んでいます。
薬は今、セルシン1.5mgです。一応これで安定している感じです。
何が効いたのか分かりません。グリシン/タウリン/イノシトールのサプリが効いたのかもしれませんし、野菜ジュースが効いたのかもしれません。ただ、とにかく、毎日安定して過ごせるようになってよかった」

断薬できたわけではないが、徐々に減薬できているし、しかも相対的離脱の症状が出ていない。すばらしい。全然上出来です。
あせらず、ちょっとずつ減らしていこう。

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