A級小倉劇場

北九州市は、5つの市(門司、小倉、若松、八幡、戸畑)の合併によって生まれた。合併といっても小泉政権下で行われたいわゆる”平成の大合併”ではなく、1963年に行われたもので、それなりの歴史がある。
しかしよそ者の僕が言うのもあれだけど、北九州市っていう地名はどうにかならなかったのかな。アバウトすぎるというか何というか。「もじ」とか「こくら」とか伝統のある地名を抑えて北九州市とは、何かもったいないよねぇ。
たとえば「神戸、明石、加古川、高砂、姫路の5市を合併して、西関西市(あるいは西近畿市)と名付けよう」などと提案したら、反論にあいまくって火だるまになると思う(笑)

せっかく北九州市に行ったのだから何か観光を、と思うのだけど、弾丸スケジュールでそんな余裕はなかった。授業が終わるのが夜7時40分で、ホテルについたら8時。そこからご飯を食べたら、それで一日がほぼ終わり。そこから観光に行く時間は(体力も)ない。

先生方も心苦しそうだった。おもてなし心というか、ホスピタリティのある先生もいると思うんだよね。産業医免許取得という目的あってのことだけど、縁あって北九州市まで来てくれたのだから、「いい街だったな」と思って帰って欲しい。当然の人情だよね。でも、コロナに配慮しないといけないから(少なくとも、配慮してるポーズをとらないといけないから)、おおっぴらに観光を勧めることもできない。
「小倉や門司は港町で魚介類がおいしいですよ。せめて夜だけでも北九州市のおいしいものを食べて行ってくださいね、と言いたいところですが、コロナで何かとうるさいこのご時世ですから」と、言葉の歯切れも悪い。
集中講座も例年なら受講者を500人集めるところ300人に抑えたというし、会場入り口でマスクだ手指消毒だとうるさかった。「開講できるだけマシ」ということだろう。
あれだけたくさん先生がいれば、中には”コロナの嘘”に気付いてる先生もいると思う。でもノーマスクで授業する先生はいなかった。唯一、こんなことを言ってる先生がいた。
「みなさん、マスク大変ですね。私もこんなのつけて授業なんてしたくない。話しにくしし、暑苦しくて仕方ない。でも感染予防のためには仕方ないですね。
しかしマスクや手洗いのおかげか、今年はインフルエンザもノロもお休みのようで、例年とは桁違いに激減しています。マスクや手洗いが奏功したのかもしれません。しかしインフルには効いても、肝心のコロナの感染拡大には効かないんですね」
この先生は気付いているような感じがしたな。

さて、どうしたものだろう。もちろん、当地に来たのは勉強のためであって、観光目的ではない。しかしせめてどこか一か所くらい、”その土地ならでは”、を見に行けないものだろうか。
小倉周辺の情報を検索していて、こんなニュースを見つけた。
『九州唯一のストリップ「A級小倉劇場」閉店へ 40年の歴史に幕』
https://news.yahoo.co.jp/articles/4d107c031cb831feb06e94b777630de391b4ba87。
僕とほぼ同い年のストリップ劇場が、コロナのあおりを食って閉店するというニュース。見た瞬間、「これだ」と思った。同じ行くなら、こういうところにこそお金を落としたい。
小倉駅のすぐ近くだし、授業が終わってから見に行ける。”夜の観光地”としてこれほどうってつけの場所はない。
土曜日の夜、授業を終えて軽い夕食をとってから、目的地へ向かった。途中、風俗案内所のおじさんに「お兄さんどうですか」と声をかけられたから、「A級小倉にはどう行けばいいですか」と逆に質問してみた。「え、そういうののほうがいいの?」と失笑された。「若いくせに物好きやな」という多少の嘲りが含まれているようだった。
誤解のないように言っておくけど、ストリップを見に行くのは僕も初めてだよ。こういう機会(旅の身の上で、閉店間近のストリップ劇場)じゃなかったら、わざわざ行かなかったと思う。

意外にも(そう、本当に意外だった)、ストリップ劇場はほぼ満席だった。しかも、9割方は男性だけど、なんと、女性客もけっこういた。土曜日の夜ということもあるかもしれないけど、こんなに繁盛しているなら閉店する必要ないじゃないか、って思った。でもこれだけ客が入るのも、もうすぐ閉店するからこそなんだと思えば、なんとも皮肉だね。

嬢のパフォーマンスは圧巻だった。踊る踊る。踊りまくる。舞台の上を行ったり来たり。傘やら鏡やら、何かと小道具を使いつつ激しく踊る。そうして踊りながら、衣装が一枚ずつ消えていく。やがて肌を覆うものがすっかりなくなる頃には、踊りの曲調が”動”から”静”になる。動きで魅せる踊りから、女性の体が持つ曲線美を誇示する踊りになる。肢体をなまめかしくくねらせて、やがて双の足がぱっくり開いて、秘密の場所が露わになる。会場にいる人々の視線が、嬢のあそこに釘付けになる。
僕は遠慮して一番後ろの席だったけど、一番前に座ってる男性客が嬢の股間をガン見してて、その目つきが真剣そのもの。

すごい空間だった。すごすぎて、ちょっと笑いそうになった。あまりにも異質な状況に出くわすと、人間って笑うんだな。
こんな空間が世界に存在するということは、一度経験しておいた方がいい。
ストリップといえば、何となく「いかがわしい」とか「不潔」とか、あまりいいイメージはないかもしれない。しかしそれはまったくの偏見だ。
ストリップは、「ただ女が脱いでいくだけ」の見世物では決してない。
結局この夜、全部で3人の嬢のパフォーマンスを見たけど、3人ともすばらしかった。踊りは一朝一夕にできるものではなくて、相当長時間の練習をしているに違いない。踊りだけではなく、当然体を見せる仕事でもあるから、体形や健康の維持も欠かせない。風俗嬢は女性なら誰でもなれるかもしれないが、ストリップ嬢はそうではないことを知った。

ただ個人的には、一回見たらもう充分かなとも思う。いい意味でも悪い意味でも「こういうものか」と納得できたから。
舞台上にあるのは、ひたすら女性の美しさだった。「これはたまらん」と興奮するような卑猥さでは決してなかった。アフリカの裸族のあっけらかんとした裸を見ても興奮しないように、何というか、性的興奮の対象ではないんだよね。
客のなかにカップルと思しき男女がいた。これはすごくわかる気がする。デートスポットとしては、下手な映画を見るよりよほどいい。

ストリップを見ることで、逆に、猥褻さの何たるかが浮き彫りになったように思う。つまり、僕が性的に興奮するためには、その対象は、もっと秘密めいて、もっと不健全で、もっと”僕のためのもの”でなくてはならない。

しかし、集中講義の参加者のなかで観光先にストリップ劇場を選んだのは、僕ぐらいだろうなぁ(笑)

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