日光と健康2

「紫外線(UV)にはA波とB波があって、B波は日焼けの原因でお肌の大敵」みたいなことは、医者よりも美容に関心のある女性のほうが詳しいかもしれない。
このあたりについて掘り下げて見ていこう。

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可視光線よりも波長の長いのが赤外線、短いのが紫外線で、紫外線はさらに、波長の長い方から、UVA、UVB、UVCに分類される。UVCについては大気で遮断されて地上に届かないので、宇宙旅行でもしない限りはとりあえず関係ない。問題はUVAとUVBである。
UVAは大気をやすやすと通過し、皮膚の奥にまで届く。一方、UVBはオゾン層により一部がブロックされ、皮膚の奥というよりは表皮に影響を与える。日焼けの原因となるのは(従って長期的曝露により皮膚癌の原因となるのは)、主にUVBだ。
もう一つ大事なのは、UVBは大気にブロックされるんだけど、どのようにブロックされるのかに注目したい。太陽の角度が低い時間帯(朝方とか夕方)の日光は、大気の厚い層を通過するため大半のUVBがブロックされ、それだけ地上に到達するUVBは少ないが、正午の光は大気を最短距離で通過するためUVBが最も多く含まれている。

太陽とビタミンDの関係について、聞いたことがあるだろうか。「ビタミンDはビタミンというよりもホルモンに近く、日光に当たった皮膚で産生される」といった話だ。これをもう少し詳しくいうと、皮膚にあるコレステロールが日光により励起されビタミンDが産生されるが、このとき作用する日光は、特にUVBである。

日光は体にいいと昔から言われてきた。なぜ体にいいのか、多くの科学者がその秘密を解き明かそうとしてきた。答えと思われたのが、ビタミンDである。たとえばこういうグラフ。血中ビタミンD濃度が高いほど、ハザード比(この場合死亡率)が低くなる。逆に、Dが最も低い人は、最も高い人よりもざっと2倍死にやすい。

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さらに別の論文から、以下のようなグラフ。血中ビタミンD濃度(30 nmol/l以下 or 50 nmol/l以上)が生存率に大きな影響を与えていることがわかる。

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こういう研究をみると、「ビタミンDこそが長寿の秘密だ」と思うのが自然だろう。この推測を裏付けるには、介入研究をすればいい。ビタミンDを投与して血中濃度を高めた群とそうではない群を比較して有意差が出ればいい。しかし、、、

ビタミンD投与と死亡率

70歳以上の5292人を対象に1日800 IUのビタミンD3(or プラセボ)投与し、24~62か月追いかけたところ、なんと、ビタミンDはプラセボと何ら変わらなかった。つまり、ビタミンDの死亡率に対する有効性は確認できなかった。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22112804/
同様の研究は他にも複数あって、レビュー(いわば”論文の論文”。エビデンスレベルが最も高い)でも同じ結果が出ている。つまり「ビタミンD投与による寿命延伸効果はない」と。
『ビタミンDと疾患~系統的レビュー』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24622671/
『系統的レビュー~ビタミンDと循環代謝』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20194237/

科学者はこの結果に面食らってしまった。
太陽が体にいいことは間違いない。日光照射により血中ビタミンD濃度が上がることも確かだし、血中ビタミンDが高いほど死亡率が低くなることも正しい。
しかし、それにも関わらず、ビタミンDは”答え”ではないという。
つまり、ビタミンDと死亡率の間には相関はあっても因果関係はない、ということである。ビタミンDと死亡率を結ぶ他の要因、死亡率低下をもたらす真の原因が他にある、と考えるしかない。それは一体何なのか?

長くなりそうなのでこの答えはまた次に回そう。ただ、ここまでの記述から「ビタミンD投与には意味がないんだな。ということは、こんなサプリは即刻中止だ」と即断するのはよくない。上記の論文が示しているのは、あくまで「ビタミンD投与によって寿命は延びなかった」ということであってそれ以上でも以下でもない。サプリを飲む目的は「長生きするため」とは限らないでしょう?^^;ビタミンDの他の効用については何も言っていないし、ましてやビタミンDが体に悪いとはさらに言っていない。その辺りはどうか冷静に。

【参考】
Dr. Paul Mason – “Sunlight and health – from Vitamin D to Fish oil”

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