奇跡のマグネシウム

使いすぎても消耗するけど使わないとどんどん錆びついていくのが人間の能力なので、毎日何らかの形で英語に触るようにしている。英語論文を読んだりアメリカのYouTube動画を見たりして。
特に具体的なメリットがあるわけではない。僕は日本に住む日本語ネイティブだから、英語の勉強を続けたところで実生活には全然生きない。メリットという意味では、英語を使わない日はあっても日本語を使わない日はないわけだから、生半可な外国語の勉強よりも、俳句や短歌、小説などに親しんで日本語のセンスを磨いたほうがよほど実利があると思う。
ところがごくまれに、英語ができてよかったと思うことがある。たとえばこれ。

邦訳された本がやたらと値上がりしていることがある。この本、3万円を超えた値段がついてるけど、英語の原著なら定価2000円で買える。しかも原著は2003年に初版が出て以後、何度かマグネシウムの最新知見を盛り込む改訂が行われている。今売り出し中の最新版は前の版よりも新たな情報が30%も増えている(こういうことが可能なのも、原著が健康分野としては異例の17万5千部も売れたベストセラーで、出版社のドル箱だからだろう)。しかし翻訳本ではそういう改訂はとてもできない。つまり、日本語しかできなければ古い情報を高値でつかまされることになるが、英語ができればアップトゥデイトな情報に安価でアクセスすることができる。

実際、”The Magnesium Miracle”はすばらしい本だった。マグネシウムの重要性はそれなりに認識しているつもりだったが、本当の意味では分かっていなかったと思う。ビタミンCや有機ゲルマニウムの威力は臨床で実感しているから、これまで何度もブログで言及してきた。しかしこのツートップに比べて、マグネシウムをやや格下に見ていたきらいがある。とんでもない思い違いだった。この本を読了した今では、マグネシウムはビタミンCや有機ゲルマニウムに比肩すべき(ひょっとしたらこれらを上回るほどの)実力がある栄養素だと思っている。

“The Magnesium Miracle”のなかから、僕がうならされた症例を以下に紹介しよう。3万円以上の価値がある情報かもしれませんよ^^

【症例】40代後半男性
【主訴】動悸
【現病歴および経過】患者に語ってもらおう。
「症状はね、12歳のときからあるんです。今でもはっきり覚えていますよ。野球をしていて、私は守備についていました。フライが飛んできたからボールをつかもうと手を伸ばしたときに、いきなり心臓の鼓動が激しくなって。それで救急病院に運ばれました。でも原因がよくわからないということで、医者は何もしてくれませんでした。脈拍は200台の頻脈。もう死ぬんじゃないかって、すごく怖かった。幸い24時間後には脈拍は落ち着きました。
今後は循環器内科でフォローということで退院になったんですが、ラノキシン0.25 ㎎(死亡率がかえって高まるため現在では心房細動には処方されない)とインデラル10 ㎎(βブロッカー)を処方されました。ピチピチの12歳にこんな薬が出たんですよ。しかも「これからは一切の運動は禁止」と言われました。
それ以後の数年間、頻脈の発作が起こっては救急病院に運ばれる、の繰り返し。その救急病院の、いわば常連みたいになって、いろんな薬を使われているうちに、医者のほうでも私の頻脈を止める薬を発見したんですね。ベラパミル(カルシウムブロッカー)です。
いろいろあって、主治医もころころ変わって、フレカイニドを処方されていたこともありました。いや、もちろん今ならこの薬がどれほどヤバいかって私もわかりますよ。フッ素化合物を含む薬は、かえってマグネシウム欠乏を促進しちゃいますから。でも当時はそんなこと思いもしませんでした。
あるとき、ニューヨークのコロンビア プレスビテリアン病院から、心臓のオペ治験に参加しないかと声がかかりました。1995年で、私は30歳でした。薬はかれこれ18年飲み続けていることになります。しかもこの頃から、私はひどいパニック発作に襲われるようになっていました。フレカイニドなんかを飲んでいたせいでしょうね。マグネシウムがすっからかんになっていて、そのせいで不安症になっていたんだと、今ならわかります。心臓の動悸がうっとうしいし、しかもパニックでさらに胸が苦しいし、わらにもすがる思いで、その手術に参加しました。コロンビアで言われたのは「心臓の神経系の副伝導路が不必要に興奮していて、そのせいで頻脈になっている」と。で、神経のアブレーション(焼灼)を受け、手術は成功しました。私は薬から解放されました。医者も「もう飲む必要はありませんよ」と。
2003年、庭仕事をしているときでしたか、また頻脈発作に襲われました。医者によると「アブレーションがもう一度必要になることがある」とのことでした。今回の手術はニュージャージーの聖マイケル病院で受け、うまく行きました。頻脈がなくなり、薬も要らなくなりました。ただ、確かに頻脈が続くことはなくなったんですが、PVC(心室性期外収縮)は治まりませんでした。
2003年に二回目のアブレーションを受けて以後、数年間にわたってPVC発作に苦しむことになりました。それは急に、何の予兆もなく始まります。で、一度始まれば数週間とか、下手すれば数か月も続きます。何とかならないかと、インターネットを検索しました。それでマグネシウムがいいということを知って、サプリを飲み始めたんですね。効果はてきめんで、PVCはほとんど起こらなくなりました。

それでめでたしめでたし、かといえばそうじゃないんですね。長い話ですが聞いてください。2014年のことです。ふと、おしっこがしたくなって、トイレで用を足しました。でも、妙なことに「おしっこがしたい」感覚が消えないんです。いま気持ちよくおしっこが出たはずなんですよ。それなのに、まだおしっこがしたい感じがする。この感覚が何週間経っても消えないものですから、泌尿器科に行きました。血液検査とか前立腺とか調べてもらったんですが、「まったく問題ない」とのことでした。MRIを撮ったら、尿管にごく小さい石があるとのことで、「水をたっぷり飲むように」と言われました。で、実際水をたくさん飲んで、石は流れたと思います。今ならわかります。腎臓に結石があったか、膀胱の組織が少し石灰化していたせいで、この症状が出たんだろうなと。
振り返ってみると、思い当たるふしがあります。おしっこの違和感が始まる少し前に、ある病院を受診して、ビタミンD低値を指摘されました。それで1日4000 IUのビタミンDサプリを勧められました。ビタミンDは代謝プロセスでマグネシウムを要求します。つまり、マグネシウムが消耗します。そのせいでPVCがまた起こるようになったんですね。ビタミンDを摂ったのは数か月だけですが、たまにサプリを飲み忘れたときなんかにPVCが起こらなくなるものですから、なんでかなぁって思っていました。
ビタミンDが原因とは知らず飲み続け、それでPVCが悪化してきて、私は循環器内科を受診しました。入院して、ストレステストやエコー心電図を受けました。すべてまったく正常でした。ただ、脈拍3回ごとにPVCが起こる以外は。医者からはメトプロロール(βブロッカー)とカルディゼム(カルシウムチャンネルブロッカー)を処方されましたが、全然効きませんでした」

話はもっと長く続くので、ここで切ります^^;
僕がこの症例に教えられたのは、マグネシウムの重要性はもちろんだけど、同時にビタミンDの危うさだ。なるほど、ビタミンDは抗癌作用、抗うつ作用、抗骨粗鬆症作用など、非常に多用途だし、その欠乏が疾患の背景にあることはよくある。ただ、だからといってビタミンDの単剤大量投与をしてしまうと、マグネシウム欠乏(かつカルシウム貯留傾向促進)に拍車をかけて、そのために別の症状(不安症増悪、結石傾向など)を引き起こす可能性がある。この症例ではわずか4000 IUだったが、それでも悪影響は起こり得るということだ。
著者はビタミンDの摂取方法として、1日1000 IUか20分の日光浴。あるいはタラ肝油を勧めている。たったの1000 IUでいい、というのはオーソモレキュラー的にはちょっと拍子抜けする少なさだけど、これでいいという考え方もあるんだね。

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