鼻うがい

以前のブログで、堀口伸作博士のBスポット療法(鼻咽腔に塩化亜鉛を塗布することで様々な症状に奏功する)を紹介した。
僕の患者を見ていると、いかにもBスポット療法が効きそうな人がいて、そういう人には鼻うがいを勧めている。
Bスポット療法は非常に強力で、「長年何をやっても治らなかったかったがこの治療法のおかげで改善した」的なエピソードに事欠かないが、唯一にして最大の欠点がある。それは、「痛いこと」である。
しかも妙なもので、Bスポット療法が効く人ほど、痛みが強く出血量も多い傾向にあるようだ。
大変な痛みと出血を伴い、しかも複数回その処置を受ける必要があるため、よほど治療意欲のある患者でないと途中で挫折してしまう。
尤も、たとえ途中で挫折した人であっても、その効果は実感している。そういう人に言わせると、「確かに症状は少し楽になった。でも痛すぎるから、もう嫌だ」といった具合である。

そこで勧めたいのが、液体亜鉛を使った鼻うがいである。本家Bスポット療法では塩化亜鉛を使うが、塩化亜鉛は手に入りにくいので、サプリメントとして流通している液体亜鉛(硫酸亜鉛)を水で薄めて、これで鼻うがいを行う。効果はBスポット療法ほど劇的なものではないが、それほどの痛みはない。
ただ、人によってはこの鼻うがいさえ、かなりの苦痛である。しかし一日2,3回、毎日辛抱強く続けていると、効く人には数日のうちに効果が出る。
今回は当院で鼻うがいを勧め、改善を実感された声を紹介しよう。

20代男性
一週間ほど前に発熱を伴う風邪をひいた。風邪自体は数日で改善したが、その後、吐き気や倦怠感がずっと続いていた。出勤のために電車に乗ると、ひどい吐き気を感じるようになり、我慢できず実際に嘔吐したこともある。元来乗り物酔いするタイプではない。消化器内科を受診したが、特に異常なく、胃薬と吐き気止めを処方されたが、ほとんど軽快しない。3回通院したが改善せず、心因性を疑われ、当院を受診することになった。

心因性というのは「精神的なことが原因で、体の症状が出ている」ということである。つまり、精神科的治療(投薬治療、傾聴による精神療法など)の対象、ということだが、本当に心因性かどうかは、話してみてすぐにわかる。この男性は、別に精神を病んでいる印象はない。カウンセリングをしたところで、症状は何も変わらないだろう。
すでにプリンペランやナウゼリンなど一般的な投薬が無効だったことは前医でわかっている。さて、どうしたものか。
胃腸症状には、まず、キャベツである。
大阪で串カツを食べたことがありますか?「ソースの二度漬け禁止」は有名な決まりだが、もうひとつ、「添え物はキャベツ」である。
これはレタスや白菜ではダメで、必ずキャベツでなくてはならない。なぜか。
串カツを食べていれば、胃が油でもたれてくる。そこでキャベツに含まれている消化酵素が、胃もたれの助けになる。レタスや白菜にそういう働きはない。だからこそのキャベツなんだ。
「いや、理由が違う。キャベツを使うのは、二度漬け禁止だからだよ。一度漬けた後で、ソースをたしたいときに、キャベツをさじ代わりにしてソースをすくうことができる。レタスや白菜で同じようにしようにも、ふにゃふにゃでさじ状のアーチを作れないだろ。消化酵素どうのこうのは後付けの理由だよ」
そういう声がどこかから聞こえるが無視するとして^^;、ともかく、胃腸症状にはキャベツである。
以前のブログで、吐き気(妊婦のつわり)にショウガが効くことや、かつては胃カメラの際にハッカ(ミント)の溶液を使って胃の不必要な蠕動運動を抑えていた、とういこと紹介した。他には、緑茶も胃腸の興奮を鎮めるのには有効だ。
こうした食材を使ったアプローチを患者に勧めた。もちろん、精製糖質の過剰摂取や小麦、乳製品の摂取も控えめにするように伝えた。
さらに、問診時「鼻というかのどというか、何か気持ち悪い感じがある」とのことで、ピンときた。鼻うがいが効きそうなので、勧めた。
1週間後来院時。
「調子はだいぶよくなりました。朝、起きたときから始まる倦怠感とか吐き気が、ほとんどなくなりました。何が効いたのか?
食事の改善とか、キャベツを試したり、いろいろしてますけど、個人的には鼻うがいが一番効いた気がします。鼻うがいを始めた翌日から、鼻がすっきりして、頭がすっきりしました」

20代男性
以前からパニック発作があってデパスを服用しているが、最近薬の効きが悪くなってきた。また、薬の副作用か何かよくわからないが、のどの違和感、寝る前に胸もとに圧迫感があり、寝つきも悪くなった。
外に出ることへの不安感も強くなっているが、これはコロナのせいだけではないと思う。何か症状を軽くする方法はないですか?あと、サプリのことで相談なんですけど、GABAとか、セントジョンズワートってどう思いますか?ネットのレビュー見てると、けっこうよさそうなんですけど、先生の意見を聞いてみたいと思って。

のどの違和感、となれば、漢方的には半夏厚朴湯、と相場が決まっている。
GABAは評価の分かれるところで、合う人にはばっちり合うようだ。飲むなら、少ない用量から少しずつ開始するといい。
セントジョンズワートがうつ病に対して効くことは充分なエビデンスがあって、ドイツでは薬扱いになっている。ただ、パニックにはどうなのかな。そこは自己責任で、としか言えない。飲むとしても、まずは少量からね。
Bスポット療法を知って以後、のどの違和感を訴える患者には、ひとまず鼻うがいを勧める。
患者がいう「のど」が、本当に解剖学的な意味での「のど」なのか。鼻咽腔(鼻の奥、のどの上)を表現する言葉がないから、仮に「のど」と言っていることが多いものである。鼻咽腔の炎症が全身の炎症を引き起こし、様々な病気の背景にあることを説明したところ、この患者は鼻うがいに興味を持ったようだ。
次回来院時。
「いい感じです。パニック発作は一回起こりましたが、対処できました。
デパスは普通に飲んでますけど、ちゃんと効いています。胸の圧迫感とかなくなって、すぐに寝れるようになりました。
何が効いてるんでしょうね?
半夏厚朴湯も効いてると思うし、鼻うがいも続けています。
セントジョンズワートを飲むと、変にのどが渇くような気がして、怖いのでやめました。
GABAは効いていると思います。iHerbとかアメリカのGABAは用量が多すぎてよくない気がして、DHCとか日本製がちょうどいいです」

含有量が少ない、として批判されがちな日本製サプリだが、GABAのような神経伝達物質に作用するサプリや、セントジョンズワートのようなハーブ系サプリは少量摂取から始めるべきで、日本製がちょうどいいようだ。オーソモレキュラー療法は、メガビタミン療法と言ってもいいが、決してメガ神経伝達物質療法でもメガハーブ療法でもない、ということだ。
この患者は、半夏厚朴湯も効いたし、鼻うがいも効いた、という印象を持っている。具体的に何が効いたのか(どれか単品が効いてそれ以外は添え物なのか、それとも各々が相乗的に効いたのか)、きちんと特定したい気持ちはあるが、臨床医にとってのプライオリティは患者の治癒である。
まずは治して、患者の笑顔を引き出したい。理屈をつけるのはまた後でいい。

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