娘さんのことで夫婦で来院。ただし、当の娘さん本人は不在。
【症例】12歳女児
【主訴】てんかん、1型糖尿病、易疲労感
【現病歴】2018年、1型糖尿病の診断を受けた。
2020年8月顔がぴくついてしゃべりにくいことから病院受診したところ、てんかんの診断。10月自己免疫性脳炎の可能性を指摘された。12月ステロイドパルス療法を実施。
お父さん「私としてはここでお世話になりたいと思っているけど、妻は西洋医学でやっていきたいと思っています。西洋医学以外の治療法があることを知ってもらいたくて、ここに連れてきました」
お母さん「もう主人にはこりごりなんです。今までずっと主人の言うことを聞いてきました。フェリチンが低いから鉄を飲めとか、肉や卵を食べろプロテインを飲め。ぜんぶ、聞いてきました。結果、どうなったか?フェリチンが上がっただけ。症状は何も変わりません。というか、てんかんの発作がひどくさえなりました。主治医に言われましたよ。「ビタミンCが薬の邪魔をして効きが悪くなる。発作が増えたのはそのせいだ。ビタミン剤はすべてやめるように」と。実際やめると発作が減りました。プロテインも気持ち悪くなっておなかの調子も悪くなるのでやめました。
糖質制限もやりました。予約のとれない有名な先生に直々に診て頂きました。みっちりやりました。半年間。地獄でしたね。運動好きの活発な子なんですが、筋肉が痛いって言いだして。髪の毛も抜け始めて。「こんなの体にいいはずがない!」って私が言ったら、主人は「必ずこれでよくなる!続けないと離婚だ!」って。本当に殴り合いのケンカまでしました。
半年泣く泣く続けて、結果、何一つよくなりませんでした。症状が改善するどころか、家庭が崩壊すれすれまで行っただけのことでした。日に日に憔悴していく娘を見て、主人も認めざるを得ませんでした。糖質制限は何の助けにもなっていない、と。
私も娘も、栄養療法なんてもうこりごりなんです。だから今、普通に食事してますよ。パンも食べるしお菓子も食べる。娘は甘いものが大好きなんです。友達とスタバに行って、新作のスイーツを食べる。子供らしくていいじゃないですか。娘の楽しみを無理やり奪わないで下さい。
主治医からてんかん薬が3剤(イーケプラ、ビムパット、フィコンパ)処方されていて、飲んでいます。これで何の問題もありません。私は、もう普通の治療でいいんです。
それに、主治医からは「栄養療法をやるな」と言われています。いろいろなビタミン剤をたくさん飲まれては、どれがどれに影響を与えているか分からなくなる、と。
はっきり言いますが、娘はこの人を信用していません。糖質制限なんていう無茶苦茶な治療法を押し付けられて、一番苦しんだのは娘ですから。私も見ていて辛かった。「家族をぐちゃぐちゃにしたのはお父さんだ」って娘も言っています。
12月にステロイドパルス療法をしましたが、あまりうまく行きませんでした。2月にグロブリン療法を受けるために入院する予定です」
お父さん「私としては、ステロイドやグロブリンなどの治療は受けさせたくありません。もっと言えば、今飲んでる抗てんかん薬もやめさせたいと思っています。何かよい方法はありませんか?」
いやぁ、糖質制限で危うく家庭崩壊するところまで行くとは、、、
これは僕がこれまで診たなかで、間違いなく、一番大きな「糖質制限の副作用」である。
お父さんの気持ちはわかる。確かに、自分の大事な娘に変な薬は飲ませたくない。お母さんだって本来同じ気持ちだろう。しかし、一度お父さんを信頼して自由にやらせてみたら、家庭崩壊の危機まで行った。「もうこんな人、信用できない。それぐらいなら普通の医者の言うとおりにする」そういう気持ちだろう。これもよく分かる。
こういう場合、とりあえず、もっと話を詳しく聞く。「どうしろ」という話はもっと後でいいし、究極、しなくてもいい。娘を治す前に、まず家庭を治す、ぐらいの姿勢で話を聞く。
糖質制限、具体的にどういうふうにやっていましたか?1日の糖質の量は40g以下?20g以下?ビタミンCでてんかん薬の効きが悪くなるという説は僕も初耳なんですが、詳しく教えてもらえますか?今の主治医先生の治療方針で何の問題もないということですが、せっかく今日ここに来て頂いたのですから、僕のほうから栄養の話をさせてもらってもいいですか?
漠然と聞くのではない。僕のほうでも、いくつかの”当たり”を念頭に話を聞く。
健康な十代女児がいきなり1型糖尿病を発症することは、通常あり得ない。何かがあったに決まっている。「恐らく発症の前にワクチンを打ったことがあるのではないか」というのがひとつの”当たり”。「ええ、糖尿を発症する少し前に3種混合ワクチンの追加接種を受けました」
『ワクチンと糖尿病の因果関係』
http://www.vaccines.me/articles/ombzc-hemophilus-vaccine-study-in-finland-proves-a-causal-relationship-between-vaccines-and-diabetes.cfm
『インフルエンザワクチン接種後に1型糖尿病を発症した1例』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21781156/
さらに、どのような糖質制限だったのか?
「砂糖はダメということで、ノンシュガーの甘味料を摂るようになりました。たとえば料理にはパルスイートを使ったり、砂糖の入ったジュースの代わりにゼロカロリーの飲み物を飲むようになりました」
ああ、これだ。人工甘味料を使うくらいなら、普通に砂糖を使ってるほうがはるかにマシだった。人工甘味料はてんかんの原因になり得る。
『アスパルテーム摂取後のけいれん』
https://psycnet.apa.org/record/1987-10366-001
『けいれん発作におけるアスパルテームの作用』
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4615-9821-3_18
つまり、僕が思い浮かべるストーリーは以下のようなものである。
「ワクチンの副作用で1型糖尿病を発症した。その治療のために厳格な糖質制限を行ったが、代わりに人工甘味料を摂取するようになった。結果、顔の筋肉のけいれんを起こした。このけいれんを”てんかん”と誤診され、抗てんかん薬の服用開始。主治医は易疲労感を”自己免疫疾患の増悪によるもの”としているが、抗てんかん薬の副作用ではないか」
もちろん、あくまで作業仮説であり、これが正しいかどうかは分からない。それに、仮に正しいとしても、あまり意味がない。
すでに主治医先生がおられて、お母さんとしても入院してグロブリン治療を受けさせるという覚悟が決まっている。あまり僕が出しゃばって、この家族と主治医の信頼関係を損なうようなことを言うのも、適切ではない。
医療においては「正しさよりも納得のほうが大事」ということもけっこう多いんだ。