発達障害(自閉症を含め)が気付かれるきっかけとして「極度の運動オンチ」というのが意外に多い。たとえば保育園の先生から「ラジオ体操をしているときの手足や体幹の動きがあまりにも稚拙で心配です」と指摘されたりする。
手足の細かい動きを担当するのは、脳のどの部分か、ご存じか?
高校で生物を選択した人は習ったはず。「テストに出るぞー」って先生、言ってたでしょう?
そう、協調運動は小脳の機能のひとつである。自閉症児に運動が苦手な子が多いことは、以前から経験的に知られていたが、自閉症者の脳の病理研究で「小脳が最もひどいダメージを受けている」ことが確認されている。
なぜ、どのようにして小脳がダメージを受けているのか?それは免疫異常に起因する炎症によるものである。
Vargasによると、
・自閉症者の脳ではグリア細胞(微小膠細胞)と星状細胞の活性化が広範囲に見られたが、特に小脳、前帯状皮質、内側前頭回に最も多く見られた。
・さらに、小脳ではプルキンエ細胞と顆粒細胞が広範囲に消失していた。
・脳と脳脊髄液でIL6(炎症性サイトカイン)が上昇していた。
・グリア細胞の活性化は数十年にわたり持続した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16401547/
昔は小脳と仕事といえば協調運動だけだと考えられていたが、現在の脳科学では、小脳は前頭前皮質と密接な関係があることが分かっている。前頭前皮質は行動、記憶、学習などをコントロールしている。自閉症では小脳、前頭前皮質、さらに辺縁系全体に炎症が起こっていて、このために行動上の問題が生じる。
さらにVargasは5歳から45歳までの脳を調べ、「グリア細胞の活性化が数十年にもわたって持続する」ことを発見した。
これは恐ろしい発見なんだけど、この意味が分かりますか?
ある子供が5歳の時点でグリア細胞の活性化があるとして、その活性化は45歳になっても鎮静化しないまま続いている、ということです。
たとえばある種のウイルス性感染症ではグリア細胞の活性化がずっと、一生続き、ゆっくりと脳を破壊していくことが知られているが、これと同じ現象が自閉症者の脳内でも起こっている可能性がある。
Blaylock博士「グリア細胞は脳全体に分布していますが、全体に均一に分布しているわけではありません。最も多く分布しているのは、海馬、前頭前皮質、小脳です。これらは脳幹部です。ほぼすべての神経疾患の背景にグリア細胞の活性化があるのは、こういう事情によります。
通常、グリア細胞は休止状態にあります。こういう具合に枝を伸ばして分枝状になっているのが、休止状態のグリア細胞です。しかし活動していないわけではなく、基礎代謝レベルの成長因子を分泌しています。脳由来神経栄養因子(BDNF)が壊れたシナプスや膜の損傷を修復する。つまりこの休止状態こそ、脳にとって有益な状態です。
さて、ここでこのグリア細胞を刺激するとどうなるか?一瞬にして形態が変わります。刺激の質次第で、活性化修復モードか、活性化破壊モード、どちらかになります。自閉症およびその他の神経疾患では、グリア細胞が活性化破壊モードになっていることが示されています。
グリア細胞がこのモードになると、シナプス間の情報伝達を阻害し、シナプスを破壊し、新たな神経結合の形成を阻害します。
実に、困りますね。5歳で活性化モードに入ったグリア細胞が、45歳になってもまだ延々活性化しているかもしれません。しかし大丈夫。安心してください。これらはほとんどが可逆的な反応です。ニューロンそれ自体は無傷なんです。免疫反応を止め、荒れ狂うグルタミン酸を止めれば、シナプスはきちんと修復されます。適切な治療により症状が改善するのはそのためです。
逆に、自閉症に効果を上げている治療は、興奮毒を軽減し、かつ、炎症を軽減しているはずです。
繰り返します。正しい治療により脳の炎症が鎮静化し、興奮毒が軽減します。さらに、脳自身の持つ修復再生能が発揮されます。自閉症は改善します。なかには完全に回復する人もいます」
そう、心配することはない。5歳時の脳の炎症が45歳になってもまだ続いていたというのは、改善のためのアプローチを何ら行わなかった場合である。炎症のメカニズムを知り、炎症原を除去し、抗炎症作用のある栄養素などを摂取することにより、グリア細胞の活性化を止めることができる。それどころではない。グリア細胞の仕事はスクラップ・アンド・ビルドである。グリア細胞は神経栄養因子を分泌して、壊れたシナプスを修復さえする。だから、自閉症や統合失調症の人は希望を失ってはいけないよ。
「じゃあ、どういう栄養素をとればいいんだ」と思うだろう。それについては、もう少し引っ張らせてください(笑)
みんな結論を知りたがる。でも結論だけ引用しても、ほとんど意味がない。
たとえば『1分間で読む名作のあらすじ』みたいな本があるでしょ?あれを読んで文学作品を鑑賞した気分になっているとしたら、寒いよね。忍耐力を要求する長編文学があるものだけど、実際に読んでこそ意味がある。
このあたりの機微は、スポーツをする人がよく知っている。野球でもサッカーでもいいけど、プレイヤーとしては「勝ったか負けたかの結果だけに注目しないでくれ」って言いたいんじゃないかな。試合途中の心理的なかけ引き、隠れた好プレー、負けたとしても得た収穫。どんな競技であれ、ひとつの試合のなかに多くの見どころが含まれているはずなんだ。
研究で得られた知見も同じ。結論はもちろん大事だけど、その結論に至った過程にも注目したい。自閉症にどういう栄養素がいいか。Blaylock博士は、たとえばビタミンC、マグネシウム、オメガ3系脂肪酸などを挙げていて、僕としては有機ゲルマニウム、CBDオイル、ヤマブシタケあたりを挙げたい。でもこんな結論だけ見ても、つまらないでしょ。
グルタミン酸による免疫興奮毒性。これは自閉症だけでなく、すべての神経疾患(あるいは神経疾患に限らず「すべての疾患」とさえ言いたくなるが)の発症機序にかかわる超重要なテーマだから、もう少し、途中過程を踏まえさせてください。