日光と健康3

皮膚に日光(特にUVA)が当たると、皮膚でNO(一酸化窒素)が合成される。これこそが日光による健康効果の核心ではないか、とする研究がある。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24445737/
皮膚表面にNOが豊富に含まれていることは以前から知られていたが、その生理的作用はよくわかっていなかった。著者らは「日光照射により皮膚のNOが血中に遊離し様々な作用を生じるのではないか」と仮説を立て検証した。

画像3

一方の群にUVAを、もう一方の群にプラセボ(ニセの光)を照射し血圧を測定すると、UVA照射群で有意な血圧低下が見られた。これは、一酸化窒素による血管弛緩作用(リラックス作用)のためだ。
過去の研究から、血圧は夏に低く、冬に高いことがわかっている。

血圧の季節性変化

血圧が下がるというのは、健康にとって非常に意味のあることだ。現代医学は血圧を下げよう下げようとして躍起になって、降圧薬(製薬会社のドル箱)を処方しまくっているが、その理由は「高血圧は万病のもと」と考えているからである。なるほど確かに、脳梗塞や心筋梗塞などの背景には高血圧があるもので、これらの疾患は血圧が下がるだけで発症率が低下する。しかし個人的には、投薬によって無理やり血圧を下げることは利益よりもむしろ害のほうが大きいと思っている。血圧が高いことには理由がある。脳を含めた末梢に血液(および酸素)をしっかり送り届けるためである。高血圧は循環器系の必死の努力そのものである。それを人間の浅知恵で「体によくない」と即断し、薬で下げるとどうなるか?末梢が虚血に陥り、各種臓器の機能不全(脳では認知症、腎臓では腎機能低下など)が起こる。「人間は自分自身のうちに百人の名医を持つ」という。人工的な介入は有害無益であることが多いものだ。

さらに、UVAには血糖値を下げる作用まである。
運動により血糖値が低下することが知られているが、この生理的機序は、運動により筋肉から放出されるNOが、グルコースの筋肉細胞内への取り込みを促進することである。
『一酸化窒素が骨格筋におけるグルコース輸送を増加するエビデンス』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9029239/
この研究が正しいなら、日光曝露量の増える夏では、冬よりも血糖値が減少しているはずだと予想できる。調べてみると、実際その通りだった。


『ヘモグロビンA1cの季節性変化』
https://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S2359-39972015000300231
ヘモグロビンA1cの最高値は冬(2月頃)で、最低値は夏(8月9月頃)だとわかる。ヘモグロビンA1cは過去4~6週前の平均血糖値の指標だから、日光曝露量のピークと多少のずれはあるかもしれないが、グラフを見れば関連性は一目瞭然だろう。また、ヘモグロビンA1cは糖尿病の重症度を最も敏感に反映しているマーカーでもある。これが「夏になる」という、ただそれだけで下がるのだから、糖尿病患者は文字通り、太陽を毎日拝むべきだろう。

さて、改めて、日光がなぜ体にいいのか。上記の知見をまとめると以下のようになる。
「太陽は天然の降圧剤であり、天然の血糖降下薬である。日光照射により皮膚でNOが合成され、これが高血圧を低下させ(血管のリラックス作用)、さらに高血糖まで低下させる(細胞へのグルコース取り込み促進作用)ことにより、様々な症状に対し治癒的に作用するためである」
「日光(UVB)によりビタミンD合成が促進されるが、ビタミンD自体はこれらの治癒プロセスに何ら関与していない。つまり、ビタミンD投与によって寿命が延びるというのは大いなる誤解だった」

しかし、皆さんはこのように思うかもしれない。
「なるほど、太陽が体にいいことはわかった。でも太陽のせいで皮膚癌の発症リスクが高まるのも確かなんでしょう?それはちょっと。。。」
そう、太陽は非常にありがたいが、皮膚癌はできればごめんこうむりたい。以前に「皮膚癌は寿命に影響しない」ことを述べたが、それでも、癌である。かからないに越したことはない。
そこで我々が考えるのは「太陽の恩恵にあずかりながらも、皮膚癌にならずに済む方法はないものだろうか」という非常に虫のいい要求である。この要求に対する答えは、実は、ある。
それは、UVA、UVBの性質の差を利用することである。

太陽が東の地平線から昇り始めて夜が明け、天空に巨大なアーチを描きながら南中し、やがて西の地平線へと沈んで一日が終わる。このようにして地上を照らす太陽だが、その照射する光の性質は、日中と朝方(or夕方)でずいぶん違う、という点に以前触れた。つまり、朝方や夕方、太陽の高さが低い時間帯の日光は、UVBが大気によってブロックされ地上にほとんど届かないが、正午には大量のUVBが届く。一方、UVAの照射量は時間を問わず一定と考えてよい。つまり、以下のような関係性が成り立つ。

画像4

つまり、様々な健康効果のあるUVAの恩恵を受けつつも、同時に、皮膚癌の原因となるUVBを避ける日光浴の方法は、朝方あるいは夕方の太陽を浴びることである。UVBの含有量が少ないため日焼けをしにくく、従って皮膚癌を起こしにくい。それなのにUVAはしっかり含んでいて健康効果を享受できる。朝夕に散歩でもしながら朝日や夕日を拝む習慣をつければ、それだけで健康長寿は約束されたようなものだろう。
ただ、個人的にはこういう日光浴は物足りない。僕はぎらぎらとした真夏の太陽が大好きで、同じ日光浴をするなら、皮膚の焼けつくような太陽の下でやりたい。
日光曝露によって脳内麻薬(βエンドルフィン)が分泌されることがわかっている。「慢性的な紫外線曝露は、依存症および”中毒者”様行動を引き起こす」
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(14)00611-4
夏が好きで冬が嫌いな僕は、完全に日光依存症なんだろうね(‘Д’)

【参考】
Dr. Paul Mason  ”Sunlight and health – from Vitamin D to Fish oil”

タイトルとURLをコピーしました