自然農

「神戸と言えばおしゃれな都会」というイメージは、全くもって偏見である。神戸にも、しっかり”田舎”がある。

神戸市北区。自然農を実践する藤原さんの畑へお邪魔した。
サトイモ掘りの体験をした。畑で収穫されたサツマイモを、その場で薪で焼いてごちそうになった。
その後、参加者一同で藤原さんを囲んで、自然農について話を聞いた。

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「何から話しましょうか。
自然農とは何か。要するに、こんな感じです(笑)みなさん見ての通りです。
この畑。農薬はもちろん、肥料も一切ほどこしません。土を耕すことさえしません。
自然農は有機栽培とは別物です。有機栽培は、使用してもいいルールの範囲内で農薬も使いますし肥料も使います。
自然農は、基本何もしないんです。もちろん種をまいたり苗を植えたりはします。しかし、そのときにも畑を耕したり雑草を抜いたりはしません。雑草の上の部分を刈ってスペースを作るだけです。
すでにみなさんお気づきのように、カエルや蝶がいます。あちこちに二ホンミツバチも飛んでいます。いまや農薬の影響で絶滅の可能性があると言われているハチです。
草や虫を、敵にしない。ともに栄える。そして、持ち込まないし持ち出さない。それが自然農です。
一般農法は、まずは草や虫を払い、畑を耕してから種をまきます。肥料をごっそり入れて、虫が寄って来れば農薬で叩き、さらに実った作物を丸々持って行きます。自然農は、その真逆です。

なぜ自然農をやり始めたのか。
私は以前、大阪でサラリーマンをしていました。毎日すごいストレスを抱えていました。
あるとき、何かの縁で、自然農の食材を出すレストランに行ったんです。ニンジンのサラダを食べた、その瞬間に、私は雷に打たれたようにしびれて、しばらく言葉を失いました。噛めば噛むほどおいしかった。何だか胸があたたかくさえなりました。「これがニンジンの味なのか」と思いました。「私が今まで食べてきたニンジンは一体何だったんだろう」と。
それで自然農をしている農家にお邪魔して、実際に畑を見せてもらい、何かと勉強しているうちに、思い切ってサラリーマンをやめ、農家になりました。

自然農で作った作物はどれもおいしいです。本当に、例外なく、おいしいです。ああ、唯一、レタスだけは苦かったな。でもあの苦みこそ、本来のレタスなんですね。
戦前を知る高齢者が「昔の野菜はうまかった。今のは味がない」と言うでしょう?あれは過去の記憶の美化ではありません。本当です。本当に、昔の野菜はおいしかったんです。昭和20年代以前、日本に化学肥料や合成農薬が入ってくる以前、大規模集団農法が普及する以前は、今でいう自然農でした。当然おいしいに決まっています。
おいしいだけではありません。栄養分もぎゅっと詰まっています。現代の一般農法で育った野菜は、自然農の野菜と比べて栄養分が8分の1しか含まれていません。
みなさん、今日サツマイモを食べてどうでしたか?」
おいしかったです。誇張ではなく、今まで食べたサツマイモのなかで一番おいしかったです。

「ありがとうございます。そうなんです。自然農で作ると、そういう具合においしくなります。おいしくて栄養豊富、さらに、自然農の作物は腐りません。
有機栽培で育てた野菜を冷蔵庫に長く保存してみてください。腐敗して溶けていきます。しかし自然農で育った野菜はそういうふうになりません。枯れるようにしなびていきます。腐らないんです。

なぜでしょうか。これは肥料の有無によります。
肥料をやると(合成肥料であれ有機の肥料であれ)、野菜は内部に硝酸態窒素をため込みます。これが腐敗の原因です。また、人間が食べると、酸素欠乏や癌の原因になります。
硝酸体窒素を分解しようとして、いろいろな虫が寄ってきます。有機栽培のキャベツ畑に行ってみて下さい。あり得ない数の蝶が飛んでいます。「自然豊かだな」じゃないんです。過剰な硝酸体窒素のアンバランスを是正しようとする、その反動を見ているだけです。
「じゃ、有機栽培の農家は肥料をやらなければいいじゃないか」と思うでしょう。しかし肥料をやらなければ、野菜の成長は遅く、サイズも小さくなりがちです。

もちろん、自然農にチャレンジする農家もいます。一年目はけっこううまくいきます。最初は土壌にミネラル分が比較的多く含まれていますから。しかし二年目になって、農家は頭を抱えることになります。「野菜の成長があまりにも遅すぎる。サイズも小さい。こんな商品じゃ売り物にならない」
農家にだって生活があります。野菜を売ってお金を稼がないといけない。自然農の理念「雑草や虫とも共存し、農薬や肥料などで環境に負担をかけない」というその理念には共感するが、そういうきれいごとでは食べていけないことに気付くわけです。
こうして自然農を志した農家の多くは、途中で有機栽培に切り替えていくことになります。

個人が自然農を家庭菜園レベルでやるのは問題ありません。別の仕事なり収入源があって、自然農は趣味、ということなら、成長の遅さやサイズの小ささは問題にならないでしょう。でも、それで食べていこう、というプロの農家にとって、自然農はけっこうきついんです。大量促成栽培という資本主義的な要請と、自然との調和を重視する自然農の方法は、どうしても相容れません。いま本気で自然農オンリーでやってる農家は、日本でざっと100人くらいしかいないと思います。

自然農、と聞いても、世間の多くの人は「有機栽培と同じようなもんでしょ」という認識だと思います。まずは、自然農は一般的な農法とも有機栽培とも違うんだ、ということを分かってもらうことから始めないといけません。
自然農を始めたのは福岡正信さんです。福岡さんの影響を受けて、奈良県の川口由一さん(自然農の本を何冊か出されている人ですが)が自然農を実際にやってみたところ、なかなかうまくいかない。自分なりのアレンジを加えて試行錯誤して、ようやく形になってきた。僕はこの川口さんの弟子にあたる人から、自然農を教わりました」

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そう、まずは自然農という言葉の認知度を高めるところからだと思う。自然農のことを多くの人が知れば、「こんな小さい野菜じゃ売り物にならない」とみなされる野菜が、「この小ささこそが自然農だ。小さくても、栄養は普通の野菜の8倍入ってるんだ」となって、むしろセールスポイントになると思う。
すでに、”知っている人は知っている”。藤原さんの自然農栽培の野菜は、あっという間に完売する。「ぜひ私にも売ってほしい」とお願いされて、家族のためにとっておいた分まで売ってしまったそうだ(笑)

しかし今日藤原さんの話を聞いて一番印象に残ったのは、藤原さんがサラリーマンをやめるきっかけになったニンジンのこと。
食べた瞬間「感動して言葉を失う」ようなニンジンの味、一人の男の人生を変えてしまったニンジンの味、一体どんな味なのか、食べてみたいと思いませんか?

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